【内田雅也の広角追球】監督となった元名物アナが「甲子園」と口にする理由 「本気」うながす清水次郎氏
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【内田雅也の広角追球】教師になって6年、初めて監督となった西宮甲山高(兵庫)教諭の清水次郎(51)はあえて「甲子園」と口にした。試験休み明けだった18日の放課後、野球部の練習前。部長から監督に就任しての第一声だった。
「本気になることが大事だよ」と部員たちに語りかけた。「今まで生きてきた15年から17年。何かに本気で取り組んだことはありますか?」
15人の部員たちは顔を見合わせている。
「オレは本気で甲子園に行こうと思っている。周りは笑うかもしれないが、本当に行けるのかどうかはわからない。でも本気でやれば人生は変わるよ。自分で変えられるんだよ」
西宮甲山は兵庫大会でも1、2回戦で敗れるようなチームである。いきなり「甲子園」とは大きな目標をぶち上げたものだ。「自分の本気度も試されますね」と言った。
2017年4月、高校教師となって6年目。当初は「監督をやりたい」などと口にするのもはばかった。「恐れ多い。取材を通じて、多くのすごい監督さんたちを見てきました。自分の身をなげうって高校生と真剣に向き合っていた。僕なんかが言っちゃいけないと思っていました」
朝日放送(ABC)の名物アナウンサーだった。阪神戦や夏の高校野球での真摯(しんし)で誠実な実況には定評があった。ただ、少年少女が加害者や被害者になる事件をニュースとして自ら伝えるなか、「何で若くて未来があるのに」と心を痛めた。生きることの大切さ、喜びをアナウンサーとして伝えるより、もっと間近で子どもたちに訴えたかった。教師になろうと志した。
通信教育で教職課程を履修し、2016年3月に朝日放送を退社。兵庫県の教員採用試験に合格し、17年4月、西宮今津高に赴任。昨年4月、西宮甲山高に移った。これまで野球部の顧問や部長の経験はあるが、監督は初めてだった。
「責任ある立場になる。練習の指揮も試合の采配も自分でやらないといけない。見るのとやるのでは大違いですから。身が引き締まります」
そして言った「甲子園」の第一声である。ラグビーで無名だった伏見工高(京都)を全国大会(花園)に導き、優勝に導いた「泣き虫先生」山口良治のようだ。
非行や校内暴力で荒れていた学校を立て直した情熱は『スクール☆ウォーズ』としてテレビドラマにもなった。清水は教師になる前、スポニチ本紙の企画で山口と対談している。「子どもが加害者になるのは夢がないから。夢や理想や希望を持っている子は輝いている。教師は夢や希望を語ってあげてほしい」とエールを受けていた。
イギリスの教育哲学者、ウィリアム・アーサ・ワードの名言にある。「普通の教師は言わなければならないことをしゃべる。良い教師はわかりやすいように解説する。優れた教師は自らやってみせる。そして、本当に偉大な教師というのは生徒の心に火をつける」
清水は部員たちの心に火をつけたいのだ。アナウンサー時代に交流を深めた強豪校の指導者からは励ましとともに「いつでも相手になる」と練習試合を受け入れる姿勢を示してくれている。
甲子園で歴代最多68勝の高嶋仁が智弁和歌山の監督に就任した当初、弱小校で「どこも相手をしてくれなかった」。声をかけてくれたのが蔦文也で、強豪・池田(徳島)に出向き大敗した。「打たれて打たれて、電卓が必要なくらい点を取られました。30点以上。でも、試合中、何人かの選手が泣いていた。この悔しさで何くそと思った時、選手は伸びる。この涙でチームは変わると思いました」
清水は「いつか、そんな練習試合を組んでもいいかもしれません。この子らがもう少し熱くなれば……。僕はせっかちなので、その性格がマイナスに出ないようにしたい」と機会を待っている。
「それに、どうも僕は失敗をしないと覚えない性質のようです。失敗して失敗して、生徒とともに学んでいきたい」
シリコンバレーの起業家の間には「早く失敗しろ」(Fail fast)という格言がある。アップル創業者のスティーブ・ジョブズも21歳で創業してから失敗を繰り返した。「まぐれ当たり」では成功はない。失敗の経験がいるのだ。
今回の監督就任で多くの球界関係者から励ましの言葉が届いた。15人という少ない部員数について、赤星憲弘(本紙評論家)は「なら、みんな目がキラキラしてるでしょ」と言われ、はっとした。「大所帯の野球部だと目が輝いているのは限られた人数ですから」。
自身も強豪・早稲田実(東京)の野球部員だった。3年間1度も背番号はもらえなかった。確かに全員がベンチ入りし、試合に出られる。心に火をつけられる環境かもしれない。
学校は西宮の高台にあり、六甲山に沈む夕日が美しい。日が暮れ、暗やみでボールが見えなくなった。練習締めくくりのベースランニングで清水は「さあ、最後まで全力でいくぞ」と声をあげた。=敬称略= (編集委員)
◇内田 雅也(うちた・まさや) 1963(昭和38)年2月、和歌山市生まれ。小学校時代、夏休みの自由研究で高校野球の歴史を取り上げ、夏の全国大会優勝校はすべて暗記していた。桐蔭高―慶大卒。85年入社から野球記者一筋38年。
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