【内田雅也の追球】株主総会で思う 「阪神」は一体、誰のものか

[ 2022年6月16日 08:00 ]

<阪急阪神ホールディングス定時株主総会>株主総会会場に向かう株主(撮影・後藤 正志)
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 会場に設けられた「記者室」のモニター画面を眺めながら考えていた。15日、大阪・梅田の梅田芸術劇場であった阪急阪神ホールディングス(HD)株主総会である。

 いつから株主総会で株主からタイガースへの質問が出るようになったのだろう?他球団では聞かれない話である。

 記憶をたどれば、阪神電鉄本社の株主総会を初めて取材したのは1988(昭和63)年、大阪・堂島の中央電気倶楽部だった。2度目の村山実監督1年目である。当時、スポーツ紙の記者は他にいなかったと思う。株主から球団関係の質問などなかった。以後も取材に出向いたが同じだった。

 様相が変わったのは2005年秋から06年にかけての「村上ファンド問題」だろう。投資家・村上世彰氏率いる通称・村上ファンド(M&Aコンサルティングなど)が阪神電鉄株を大量取得。筆頭株主となり、役員の退陣や阪神球団の上場などを求め、騒ぎとなった。

 当時、前監督で阪神球団オーナー付シニアディレクター(SD)の星野仙一氏が村上氏に向けて「今に天罰が下る」と怒りをあらわにした。06年5月15日のことだ。「タイガースという関西文化に手を突っ込んで、牛耳ろうとしている」

 この時、阪神ファンは気づいたのだ。阪神は文化なのだ。「球団は一体誰のものか?」と自問自答した。04~05年の球界再編騒動もあり、考えを深めていた。

 オーナー(阪神電鉄本社社長、または会長)のものではない。当時の野球協約、今の定款にあるようにプロ野球は「文化的公共財」なのだ。

 問題は、村上氏の逮捕(インサイダー取引)を経て06年10月、阪急と経営統合となった。翌07年の阪急阪神HD株主総会から、球団への質問が相次ぐようになった。株主(ファン)が自分たちのチームだと熱い愛情を示すようになったのだ。

 「わしらはファンのために懸命にやってきた。それが伝統だ」と「ミスター・タイガース」藤村富美男氏が言い残している。川藤幸三氏が1985年シーズン中に聞かされた金言である。

 『大阪学』で有名な大谷晃一氏が<タイガースは日本人の心のふるさと>とその魅力を説いている。移り変わりが激しい世の中、昔と変わらぬ愛情を寄せられるというわけだ。親会社(の親会社)に物申すファンの心情である。
 (編集委員)

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