ロマンじゃない 根尾昂の現実的「二刀流」が野球界を救う

[ 2022年6月13日 13:57 ]

中日の根尾
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 【君島圭介のスポーツと人間】中日・根尾昂が今季は投手も兼ねている。まだ2試合の登板だが、2イニングを無失点と結果も出ている。点差の開いたシチュエーションとはいえ、1軍マウンドなのだ。立派な結果だ。

 同じ二刀流でも、大谷翔平(エンゼルス)のように周囲がロマンを追求するスタイルとは少し違う。野手である根尾が投手も兼任する最大のメリットはもっと現実的で、ベンチ入りの「増枠」だ。NPBの規定では試合に出場できる人数は25人。監督は投手と野手の割合を決め、さらに攻撃的か守備的かの戦略やケガ人の有無によってメンバーを確定する。実は結構、頭を悩ませている。

 根尾は内外野を守れ、足も速い。本来は打力も期待できる選手で、さらにマウンドにも立てるなら「代走→登板」「登板→打席→守備固め」とプラス3、4人分の戦力として計算できる。

 役割は違うが、同じタイプの現実的二刀流にロッテ・佐藤都志也がいる。登録は捕手だが、一塁手としての出場も多い。東洋大時代には一塁でも捕手でもベストナインに輝いた。出場機会が少ない3番手捕手の登録が必要ないばかりか、先発捕手が試合を作って、終盤に佐藤都を捕手に戻せば攻撃的なオーダーも作れるし、その逆もある。

 根尾の中日入団1年目、沖縄・読谷の2軍キャンプ地で陸上トラックを走る姿を見た。体幹がぶれず、足を付け根からしっかり回転させて地面を蹴るフォームは、これまで見てきたプロ野球選手の中で群を抜いて美しかった。小学生で陸上、中学生でアルペンスキーで全国トップの成績を残したのも納得だ。

 大谷の二刀流がそうであるように根尾の二刀流も根尾にしかできない。例えば投内連係プレーは安定するだろうし、野手陣の心理も読める。何より、大谷のような突き抜けた「エースで4番」タイプではない野球少年にチームで必要とされる道筋を示してやれる。

 近年、スポーツをする子供の専門化が著しい。野球をする子は小学校入学前からクラブに所属し、特化した練習を積む。選手層の厚い高校では投手に打撃練習を行わせないところもある。根尾の二刀流はそんなエリート教育に対するアンチテーゼにもなる。競技人口の減少が進む野球界は根尾のような少年が増えなければ衰退する。

 成績ランキングの上位に名前がなくても試合のあらゆる場面で貢献する。それが根尾昂というアスリートの球界での立ち位置であり、楽しみ方ではないだろうか。立浪監督のアイデアと手腕に期待している。(専門委員)

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2022年6月13日のニュース