【内田雅也の追球】“赤土”敗戦球の誓い――サヨナラ暴投の阪神バッテリー

[ 2019年7月1日 09:15 ]

セ・リーグ   阪神0―1中日 ( 2019年6月30日    ナゴヤD )

<中・神(11)> 延長11回2死三塁、打者・高橋のとき、ドリスの暴投で三塁走者・平田が生還(撮影・大森 寛明)
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 アメリカには「ボールに土を着ける」という表現がある。投手がよく低めに投球を集めていたといった意味で、褒め言葉に使われる。

 たとえば、1995年、大リーグ・ドジャース入りした野茂英雄が得意のフォークを武器に好投すると、監督のトミー・ラソーダが「今日はよくボールに土を着けていたね」とたたえた。

 背景には土に着けた(つまりワンバウンドした)投球を止め、あるいは捕る捕手の存在がある。

 野茂の場合はマイク・ピアッツァが懸命に止めていた光景が思い浮かぶ。試合前練習中もコーチが投げる、バウンドした球を止める「ドリル」を繰り返していた。

 阪神の梅野隆太郎もワンバウンドを止める(捕る)技術に定評がある。走路を封鎖する意味ではなく、バレーボールのように止める意味でブロッキングという。本紙はツイッターとの連動企画で「梅ちゃんウォール」と名づけている。

 このウォール(壁)のすごみはボールの跳ね返りを極力抑えることにある。体やミットで衝撃を吸収するのである。

 そんな壁でも最後はどうにもならなかった。0―0の延長11回裏、2死一、三塁。打者・高橋周平のカウント0ボール―2ストライク。ラファエル・ドリスの投げたフォークは打席の数メートル前でバウンドした。梅野は壁で後逸は防いだが、一塁側に数メートル跳ね返った。この間に三塁走者が還り、サヨナラ負けとなった。最後の白球には打席前方、ダートサークルの赤土が着いていた。

 ボールに土を着けるのも、壁で投球を止めるのも、必要な姿勢である。ただし、バウンドは時に不規則で、走者の進塁を許す。空振りを奪う鋭いフォークは暴投の危険性もある両刃(もろは)の剣なのだ。

 あの95年、日本語「サンシン」がアメリカではやり言葉になるなどナ・リーグ奪三振王になった野茂は、一方でリーグ最多暴投(19個)を記録していた。

 ドリスの暴投は今季4個目で、昨季の3個を早くも上回った。

 それでも、ドリス―梅野のバッテリーは誓って姿勢を変えないはずだ。走者三塁でフォークを制限するようでは、ドリス本来の持ち味が消えてしまう。梅野はまた、あの壁に磨きをかけるのだろう。そして言うはずである。“心配ない。バウンドしても何とかする。思い切って投げて来い”。それが信頼ではないか。

 5月2日以来、約2カ月ぶりに借金を背負い、名古屋から横浜に移った。月も変わる。明日への道筋は見えている。=敬称略=(編集委員)

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2019年7月1日のニュース