G鈴木「神走塁」生むルーティンは“掃除”「ベースや塁間は聖域」

[ 2015年12月25日 08:10 ]

今年のオールスター第1戦、5回裏無死一塁、初球で二塁盗塁を決めた代走・鈴木

 球界屈指の走塁技術を誇る巨人・鈴木尚広外野手(37)。代走として登場すると、東京ドームの観客の視線が塁上の鈴木に注がれ、「走れ尚広!」コールが響き渡る。球場全体が相手バッテリーに重圧をかける独特の雰囲気に変わるのだ。

 鈴木の凄さがクローズアップされるのは、勝負を懸ける試合終盤で起用され、絶対に失敗できない極度の重圧の中で、警戒をかいくぐって盗塁を成功させるところにある。代走での通算盗塁数122は、プロ野球記録だ。そんな「神走塁」を生み出すグラウンドでのルーティンがある。

 7月17日の東京ドーム。プロ19年目で初出場した球宴第1戦の5回、先頭の中村が右前打で出塁すると、代走の鈴木が大歓声に包まれて一塁ベンチから出てきた。一塁にたどりついた瞬間、オレンジ色の手袋をはめた左手でベース上のほこりを振り払った。このベースをキレイにする動作が、鈴木にとって勝負モードに切り替わる「スイッチ」なのだ。

 「自分にとってベースや塁間は聖域であり、勝負する仕事場。神聖なところだから、塁に出たらまず汚れを落とします」

 練習中もベースランニングなど走塁練習の時以外は、一、二塁間を結ぶ架空のライン上は絶対に踏まずにまたいでいるという。ファウルラインをまたぐ投手はよくいるが、「足のスペシャリスト」ならではのこだわり。27・431メートルという塁間で勝負し、プロの世界を生き抜いてきた鈴木のプライドが垣間見える。

 ホームゲームでは試合開始6時間前からストレッチやランニングなど入念な準備を欠かさず、その日の体の状態に合わせた練習メニューをこなす。起用されない日もあるが、自分の役割に誇りを持ち、黙々と同じように出番に備えるプロ意識の高さは、若手選手の最高の手本となっている。

 来季に向けた抱負を聞くと、「野球をやっている“自分”という意識をつくりあげたい」と言った。プレッシャーなど外的要因を遮断して常に「好調な自分」でいることが理想だという。今年、ラグビー日本代表のFB五郎丸歩(29)がキック前に行う「五郎丸ポーズ」が話題に集めた。周りの環境に左右されず「自分の世界」に入り込み、正確なキックをするためのルーティンとして行っているものだ。

 「五郎丸さんもそういう状態になるためにやっているから一緒だと思う。“役者”になる。それが一番目指すところ」。相手バッテリーを「自分の世界」に引き込み、足で勝利に導く背番号12。“尚広ポーズ”が生まれるかは分からないが、来季はベンチで備えている時から鈴木の一挙手一投足に注目したい。(青木 貴紀)

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2015年12月25日のニュース