残り2年切った19年ラグビーW杯、長くはない方向性定める時間

[ 2017年11月10日 11:00 ]

4日の豪州代表戦後半終了間際、トライを決めた日本代表・姫野はガッツポーズ(右はリーチ)
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 仕事で使用するラップトップパソコンに、「RUGBY WORLD CUP 2015 STATISTICAL REPORT」なる96ページに及ぶPDFの資料を保存している。タイトルの通り、国際統括団体ワールドラグビー(WR)が15年W杯のデータをまとめたものだ。

 例えば、前回大会の日本代表は規律の徹底が強みだったが、実際に全4試合で犯した反則数32は出場20チーム中最少。決勝トーナメントに出場したチームは試合数と反則数が比例するため単純に反則数だけを比べるのはフェアではないが、試合の全反則数に占める自軍の反則数41%も最少だったから、看板倒れではなかったことが証明されている。また、全選手の平均体重100キロは、96キロのウルグアイに次いで2番目に軽かった。外国出身選手が3分の1を占めても「小さな日本人」を象徴する数字だが、同じく平均体重100キロだったアルゼンチンは4強入りした。意地悪な言い方をすれば、サイズは決して言い訳にならないことを証明しているとも言える。

 そんな中で、エディー・ジョーンズ前ヘッドコーチが構築したラグビースタイルを象徴するのがパスの数字だ。日本のハーフ団を除くバックスが放ったパス154本は全パスの24%であり、これは全20チーム中で最も比率が低かった。一方でハーフ団が放ったパス393本は、同じく62%で最も比率が高かった。当時はスクラムハーフの周辺にFWを配置し、狭い地域で攻撃を素早く繰り返すスタイルだった。これらのパスの比率に呼応するように、攻撃時のラックとモール数が10秒あたり1回という数値も、アイルランドやトンガと並んで最多。この資料、現在もWRの公式ウェブサイトでダウンロードできるので、興味のあるファンにはぜひ一度読んでもらいたい。

 4日のオーストラリア戦、日本は30―63で完敗した。結果も内容も全てを悲観するほどではないが、かといって開幕まで2年を切った19年W杯に向けて楽観できるものでもない。ただ目指している方向性がぶれている点には不安を覚えた。ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチはキックを使ってアンストラクチャー(陣形の乱れた状態)を作る攻撃スタイルを標ぼうしているが、キック回数は日本の20回に対してオーストラリアが21回。ポゼッションが38%と極端に攻撃時間が少なかったのも原因だろうが、少なくとも前体制と違って数字からはスタイルが読み取れない。奪った3つのトライもスクラム起点が一つ、ラインアウト→モール起点が一つ。後半終了間際のロック姫野のトライにしても、スクラムを起点に速いテンポで連続攻撃を仕掛けて奪ったものだった。

 試合後の会見でジョセフ・ヘッドコーチは「選手にはフリーライセンスで判断して攻撃しろと伝えている」と語った。つまりは状況に応じ、最善策を取れということなのだろうが、であれば試合序盤からスクラムやモールやキックなしの連続攻撃にこだわって良かった。そして事前の合宿では、そのための練習を重ねても良かった。そうすれば大金星とまではいかずとも、少なくとも「完敗」と表現するほどの負けにはならなかったのではないか。

 理想にこだわるのか、あるいは現実的な戦術に方向転換するのか。本番まで残り2年を切った今、その方向性を定める時間は決して長くは残されていない。(阿部 令)

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2017年11月10日のニュース