海老沼“男気”金!現地アナ絶叫「サムライッ!」

[ 2013年8月29日 06:00 ]

男子66キロ級決勝、一本を奪って優勝を決めガッツポーズする海老沼

世界柔道第2日 男子66キロ級

(8月27日 ブラジル・リオデジャネイロ)
 海老沼匡(23=パーク24)が執念の金メダルを獲得した。決勝のアザマト・ムカノフ(22=カザフスタン)戦で左肘を負傷したが、残り1分で逆転の大内刈りを決め、6試合全て一本勝ちでの大会連覇。ロンドン五輪で銅メダルに終わった悔しさを晴らした。福岡政章(29=ALSOK)が銅メダルを獲得。初日60キロ級の高藤直寿(20=東海大)に続いて男子は連日の金メダルとなった。女子52キロ級では初出場の橋本優貴(24=コマツ)が銅メダルを獲得した。

 「痛い!!痛い!!痛い!!」。騒がしいブラジルのファンの歓声を超える大きさで会場に悲鳴が響いた。決勝の3分すぎ。反則まがいの脇固めで浴びせ倒されながら海老沼は絶叫した。「待て」がかかっても、しばらく左肘を押さえてもん絶した。

 「昔から痛いと絶対に言わない子だった」。スタンドで見守った父・時男さんは語っていた。その海老沼が叫ばずにいられなかった。立ち姿勢から全体重をかけて倒れていくような脇固めは反則。井上康生監督も「あれは投げるつもりの技ではない」と憤ったが、審判団には見過ごされた。

 左肘はビリビリとしびれ、痛んだ。指導も取られている。絶体絶命。しかし、心までは折られなかった。「戦うしかない」「(左手で)持つしかない」。海老沼の気持ちははっきり固まった。

 大会にいたる過程でも苦しみはあった。五輪の悔しさを抱えモチベーションは低空飛行。1カ月前には右足首を負傷し珍しく周囲に「心が燃えない」と漏らした。その時に井上監督から「本当に出るのか?」と問われた。「辞退してもいい。また来年もある」。突き放された言葉に目が覚めた。海老沼の答えは「出ます」。連覇への意欲は確たるものに変わった。

 ロンドン五輪では準々決勝でジュリー団による指摘で判定が覆る“逆転勝利”。しかし、平常心を欠いたまま準決勝で敗れた。この日の準決勝、決勝は「ここで負けたらロンドンと一緒だ」と必死に自分にムチを入れた。「反則ギリギリの技も使って相手が勝ちにきた。それだけ強気で来ている。負けじと強い気持ちで戦った」。残り1分1秒、痛む左肘で相手の襟をつかみ、右手も前襟。「思い切っていくしかない」と逆転の大内刈りをきめた。海老沼が今度は歓喜の叫びを響かせた時、現地のテレビではアナウンサーが「ジャポネース・サムライッ!(日本の侍)」と絶叫した。

 一連の不祥事によって地に落ちた柔道界のイメージ。しかし、連日の金メダル、日本人だけでなく外国人の胸も打つ力闘は何よりも明るい知らせだ。「ロンドン五輪を経て少しは進化できたのかな」。海老沼にとってもロンドンの悔しさを振り切り、リオ五輪までの道を照らす貴重な金メダルになった。

 ◆海老沼 匡(えびぬま・まさし)1990年(平2)2月15日、栃木県小山市出身。父が四段で、2人の兄が通っていた野木町スポーツ少年団に通い、5歳から柔道を始める。高藤は柔道クラブの後輩。東京・弦巻中から世田谷学園、明大と所属の吉田秀彦監督と同じ経歴をたどる。肩車やすくい投げを得意としていたが、ルール改正で一時不調に。そこから復活して11年世界選手権で優勝し、昨年のロンドン五輪で銅メダルを獲得。1メートル70。左組み。得意は背負い投げ。

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2013年8月29日のニュース