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【さくらいよしえ きょうもセンベロ】技ありマグロと効果なレトロ

[ 2016年11月11日 12:00 ]

大衆酒場「北海 三四郎」全景

 秋深し。今日も今日とて酒恋しい。“センベロ”ライター、さくらいよしえが訪れたのは大衆酒場「北海 三四郎」の昭和の薫りを色濃く残す名店。気さくな店主はあの人の…合わせ技1本の板橋ナイト!

 のれんの隅に「三四郎」と小さく染め抜かれている。店主は、明治時代の柔道家、姿三四郎こと西郷四郎の子孫だ。どんな益荒男(ますらお)かと思ったら、可愛いニコニコおじさんが現れた。昭和の忘れ物のような鄙(ひな)びた店内、ダイヤル式のピンク電話に、「ご自由にどうぞ」と老眼鏡。棚に店主の秘蔵写真集がいっぱい。

 宮沢りえの「Santa Fe」に羽賀研二と梅宮アンナ、超お宝の藤田朋子。そう、ヌーディーなやつ、限定。

 名物は、毎日築地から仕入れる魚介。「板橋盛り」は、マグロの赤身にカツオ、舌の上で踊りだしそうなぷりぷりの北海生ダコに艶めく赤貝など、とっても丁寧な仕込みがほどこされた特大盛りで2000円。 

 マイルドな味わいのポテサラに、メヒカリのフライなど技が光るサカナのラインアップも素晴らしい。

 どこで腕を磨いたのかと思ったら、信じられないことに修業先は目と鼻の先、老舗寿司店「魚がし寿司」(姉妹店ではない。が、その縁でいいネタを仕入れられる)。

 店主は18歳で上京、月給1万5000円で寿司職人の見習いに。やがて時は流れ「握りが絶品」と熟女ファンも獲得、寿司店を開くのが夢だった。

 しかし!

 「(寿司店で働く夫とは)顔見知りでしたよ。でもある日、偶然レストランで会って。その後あっちでもこっちで行き会うの。私は結婚するつもりもなく、もともとこの店(「北海」)を切り盛りしてましたから。でもあんまり偶然が重なるから、妹が“お姉ちゃんに気があるんじゃない”って」となれそめを語るのは、奥様、百合子さん。

 交際は密(ひそ)やかに始まった。人目を避けてデートはもっぱら隣町。「北海の常連さんからは“百合ちゃんにはだまされた”って言われて。やだアハハ」

 で、めでたく勤務先を“寿退社”したのは男のほう。ご近所の行きつけ酒場に永久就職…!

 修業先への義理を立てマグロ以外は握りは出さないのが信条(精神だけは西郷四郎)と語る店主だが、休日は、もっぱらUFOキャッチャーに没頭。カウンターには各種ぬいぐるみに謎のキャラがひしめく。

 「女性客にあげるためですよ。女の人は、2回目からお連れさんと来てくれるもの(ニコ)」

 帰り道、大きなパンダを持たされた。とっておきの戦利品らしい。「またのご来店を~」。いろんな意味で、狙った獲物は逃さない三四郎…。(さくらい よしえ)

 ◇北海 三四郎 JR埼京線板橋駅からすぐ。創業50年の老舗は一人客からグループ、宴会まで地元客を中心ににぎわいを見せる。西郷四郎の「たぶんひ孫…」と言う店主の志田孝則さんは新潟県阿賀町出身。寿司職人だった腕で調理する鮮魚はぴかぴか。外回りを担当する奥さん、百合子さんとの息もぴったりだ。魚のほか定番の串焼きも。焼き鳥3本330円など。東京都板橋区板橋1の19の3。(電)03(3964)7047。営業は午後5時~深夜0時。金、土曜日は深夜1時まで。月曜定休。

 ◆さくらい よしえ 1973年(昭48)大阪生まれ。日大芸術学部卒。著書は「東京★千円で酔える店」(メディアファクトリー)、「今夜も孤独じゃないグルメ」(交通新聞社)「にんげんラブラブ交叉点」(同)など。

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