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【全国ジャケ食いグルメ図鑑】質実にして剛健 味もまたしかり

[ 2016年5月20日 05:30 ]

屋号だけで貫録十分の権兵衛のジャケット
Photo By スポニチ

 人気ドラマ「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんが外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。広島市内で貫禄たっぷりの店を発見した久住さん。絶品のおでんに「こんなにたくさんのおでんを食べたのは人生で初めて」と大興奮。でも、あまりのおいしさに「写真撮るのを途中で忘れちゃって…」。ホントは酔っぱらっただけじゃないの!?

 広島市内で発見。このジャケット(店構え)が、角を曲がったら目に入り、ビビッときた。これは只者(ただもの)ではないぞ。居酒屋であろうことはわかるが、何を食わせる店か一目ではわからない。

 「権兵衛」。屋号だけを謳(うた)っている。よくよく見たら路上灯におでんの写真が小さく入っている。赤い提灯(ちょうちん)に小さく「おでんや権兵衛」と書いてある。

 おでんとわかって安心して入る。でなければ、ちょっと一人で一見(いちげん)さんで入るのには、ためらう貫禄。だが客のものであろう自転車が、地元の人々が気軽に通う店にも見える。

 ボクはこの店を自分で、夜の繁華街を歩き回って見つけた。そこ、強調したい。誰にも教えてもらわず、ネットもガイドも見ずにここに入った。広島から戻ってから、この店が開店92年の老舗と知った。

 とにかくまず驚いたのは、おでんのタネの多さ。野菜も魚介類も肉類も、東京で食べるおでんの5倍ぐらいある。そして独特の味噌で食べるタネもたくさんある。今回あまりおでんの写真を撮らなかったが、その一つ一つの丁寧さにも関心した。

 例えば今回初めて見た「さやえんどう」。串に刺す時、大きさを大きい方から小さい方へ並べている。芸が細かい。「あわび」も薄切りにして真ん中に肝を刺している。気が利いているじゃないか!「ナス」のおでんも初めてだ。半分のをさらに切って、味噌と黒ゴマをかけて出された。このナスがまた絶品。

 ほかに食べたおでんは、めかぶ、春菊、わらび、スネ肉、にし貝、ネギマ、たけのこ。ようやく普通に大根。牡蠣(かき)が終わっていたのが残念だったが、ボクはおでん屋に一人で入って、こんなに食べたのも初めてだ。しかも全部うまい。仕事が丁寧。薄味でだしが利いてて上品。もやし、銀杏(ぎんなん)、博多ネギ、豚耳なんてのも珍しい。もちろん、ちくわ・はんぺん・こんにゃく・卵と普通のものはもちろん全部ある。

 目の前の大きなおでん鍋も色とりどりだが、野菜類などは注文が入ってから厨房(ちゅうぼう)の方で仕込まれて出てくる。酒の取りそろえもかなりで、若き店主のお薦めに従って飲む広島の地酒はどれもおでんにあって、ついつい杯が進む。木の酒だるを小さくしたようなコップも珍しい。茶飯やおしんこもある。シメもバッチリだ。

 あらためて見れば、カウンターもどっしりとして広く、店内は明るく、しかし一人でもリラックスして実に気分良く飲めた。

 ジャケットが中身を表している店の典型だと思った。気取らずかっこつけず、等身大で丁寧なサービスを心掛けていると感じた。広島に来たら、絶対また来たい店ができた。

 ◇権兵衛(ごんべえ) 1924年(大13)創業。現存するおでんの店では国内で5本の指に入る老舗。おでんのネタは約80種類。広島市中区薬研堀1の23、銀山町駅から徒歩3分。(電)082(241)0029。月曜午後5時~午後11時、火~土曜午後5時~深夜2時。日祝休。

 ◆久住 昌之(くすみ・まさゆき)1958年、東京都生まれ。漫画家、 漫画原作者、ミュージ シャン。81年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロにおいて「夜行」で デビュー。94年に始 まった谷口ジローとの「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題 に。舞台のモデル となった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。

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