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【全国ジャケ食いグルメ図鑑】東京・御嶽駅前で街から離れた“町の中華”

[ 2018年3月30日 12:00 ]

御嶽駅前「東峯園」の外観
Photo By スポニチ

 人気ドラマ「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんが外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。少年時代、麺が見えないほどお肉の乗ったチャーシューメンを食べてみたいと思ったもんです。でも年取ってそんな量は食べられなくなったのに、あの“夢の味”がよみがえる店を大発見。外観も店内もすべてが“昭和の味”です。

 JR青梅線の御嶽駅前にあって、ジャケット、つまり店構えを見てずっとずっと気になってて、だけど入ったことなかった店にやっと入った。北京料理「東峯園」だ。

 昔、LPレコードでもあった。ジャケットが気になっていて、いつか買いたい、中身が聴きたいと思うんだけど、いつももっと欲しいレコードが出てそっちを買っちゃうから、なかなか手に入れられないアルバムが。

 本当に駅の真ん前。写真を見てください。いいでしょう?茶色い地に白い文字で店名。「北京料理」の「京」のナベブタが落ちてて、「料」も木へんになっちゃってるけど。

 左に「一品料理」、右に「喫茶」とある。中華に喫茶とつくのは珍しい。ここは山登りする人々の通り道だから「食べなくても、ちょっとお茶だけ飲んで休んでいってください」という声掛けのようにも感じる。

 洗いざらしの白い暖簾(のれん)も好感が持てる。飾り気なくて、真面目そう。看板は「北京料理」なのに暖簾は「中華料理」。こういうズレ、老舗の食堂には本当に多い。むしろ長く続いている証かもしれない。

 店前の自動販売機の後ろに木造の物置みたいなものが作られていて、木戸で、相当古そうだ。店の歴史を感じる。その右の水道と流しも完全に昭和だ。

 これは絶対いい店でしょう。見ていると、登山客がチラチラ見ては通り過ぎて行く。気になるが先を急いでいるのだろう。今までのボクもああだった。

 サンプルケースを見る。おほほっ。これは相当だ。チャーシューにシワが寄っている。スープが器からずれてる。タンメンの色がすごい事になってる。もはや、このサンプルから実物を想像することはできない。

 近所の住人と思(おぼ)しきおじいちゃん2人づれが入って行ったので、席が無くなるかとちょっと焦る。でも彼らに続いて入ってみると、店内は意外に広く、お客さんはたくさんいたが、席にはゆとりがあった。

 いい感じの昔の中華食堂だ。ジャケットを裏切らない中身。木のテーブルに木の椅子。入り口入ってすぐ左に飲み物の冷蔵庫。中に瓶のコーラとバヤリース。上にだるまがのっている。

 サイン色紙がたくさんある。永六輔の色紙が別格のように飾られている。

 近所の人と思しき客が多い。定食をガッツリ食べている人、サンダル履きでラーメンを食べている人。ビールを飲んで餃子(ギョーザ)を食べている人。若い西洋人の男女3人連れもいた。観光途中だろうか。食べ終わって、スープも全部飲んだようで、丼を全部重ねて、話をしてる。

 ボクはビールと餃子を頼んだ。餃子は5個。だけど隣に2人連れの客が来て、餃子を頼んだら店員が「1人前5個だけど、6個にしますか?」と言っていた。そういう心遣いが嬉(うれ)しいじゃないか。餃子は430円。これが小ぶりでおいしかったぁ。昼ビールにピッタリ。

 酢豚とかカニ玉といった中華料理もあるけど、肉入り野菜炒めやロースカツ定食もある。でもやはり麺の客が多い。店のオススメは「みたけラーメン」で「肉、野菜、シメジなどがたっぷり入った醤油(しょうゆ)味」とある。頼んでいる客を見た。具材がこんもり山になっていた。カレーもあるし、おでんもある。

 ボクはサンプルで表面にシワの寄っていたチャーシューメンを頼む。これが懐かしいラーメンだった!スープの匂いがDNAに刷り込まれている、今や都内では絶滅寸前の香りと味。大好き。麺は手打ちとあっただけあり、断面が長方形な感じの麺で、コシもあるけどやわらかめで、そこもボクには懐かしく、嬉しい。大きなチャーシュー5枚と小さなチャーシューが1枚。表面が覆い尽くされて麺が見えないほど。でもこのチャーシューがやさしい肉で、残ったビールの肴(さかな)になる。もちろんシワは無い。

 都心から遠いから古き良き“町の中華”の空気が、そのまんま保たれているのだろうか。本当に好きな店。今度は、五目甘酢カタヤキソバや夏季限定の冷やし中華も食べてみたい。

 ◇東峯園(とうほうえん) 戦後すぐの1946年(昭21)創業。ラーメン500円。餃子定食580円。東京都青梅市御岳本町334の17、JR御嶽駅徒歩1分。(電)0428(78)8376。営業は午前10時〜午後8時30分。木曜定休。

 ◆久住 昌之(くすみ・まさゆき)1958年、東京都生まれ。漫画家、漫画原作者、ミュージシャン。81年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロにおいて「夜行」でデビュー。94年に始まった谷口ジローさんとの「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題に。舞台のモデルとなった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。

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