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【全国ジャケ食いグルメ図鑑】佐賀・嬉野温泉で心もとろける温泉湯ドーフ

[ 2018年1月19日 12:00 ]

シブイ屋号に貫禄たっぷりの大きな看板。なぜか「うどん」だけが流麗な筆文字だ
Photo By スポニチ

 人気ドラマ「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんが外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。せっかくの旅先、その土地で長く愛されている店に寄りたいもの。でも、そんな店こそ、旅の者を寄せつけない独特の“入りにくさ”を持っている。佐賀県嬉野温泉で、ジャケ食い垂涎(すいぜん)の店、見つけちゃいました。

 佐賀県嬉野温泉で発見した店。「あかつき食堂」という屋号がしぶい。

 この、旅の者には、ほんの少し入りにくい感じもあるところが、ジャケ喰(ぐ)い者(ジャケットつまり店構えで、ネットなどを調べずに店に入る者)にはたまらない。

 けっこう古そうだ。車のドライバーに対してアピールする大きな看板に貫禄がある。「カツライス」と「カツ丼」という似たメニューの間にカレーライスが挟まっている不思議。佐賀でもチャンポンなんだな。うどんだけが流麗な筆文字になっている風流。看板の下の「肥前夢街道」の文字までが、この店のジャケットに取り込まれている。

 午前11時、佐賀で車の運転をしてもらっているYさんと入店。客は誰もいない。大きな石油ストーブがあり、大鍋がのっている。家の食卓にあるようなテーブルが並んでいる。雑然としているのがボクには落ち着く。ペプシのアイスクリームボックスが、店の冷蔵庫として使われている。

 「すいませーん」と言うとおばちゃんが厨房(ちゅうぼう)から出てきた。「寒いでしょう、ストーブの近くに並んで座って」。テーブルの上には卵が5個。うどんとかに入れるのだろうか?調味料に柚子胡椒(ゆずこしょう)があるのが土地柄でうれしい。

 お茶を出してくれたおばちゃんに「ここは何時から開いているんですか?」と聞くと「朝は7時から。景気のいい時は6時から来よらしたけど」。九州弁がうれしい。そのうち店のおじちゃんが外から帰ってきた。僕らに話しているのか、独り言か、おばちゃんに言っているのかわからない感じに「出前しなさんないうで」「出前せん」とか話しているが、何を言っているのかよくわからなかった。

 東京から何度も嬉野に来ているYさんに聞くと「店主は前日から風邪をひいていて、息子が出前はやめとけというので、今日は出前はしない」と言っていたそうだ。通訳がいる。

 黒のメニュー板がカッコイイ。だいたい500円ぐらい。安い。しかし表の看板にあった「カツライス」は無かった。

 Yさんは肉うどんを頼む。ボクはおばちゃんのお薦めで、湯豆腐と野菜炒めにご飯とみそ汁を頼んだ。「湯ドーフ」の表記が楽しい。待つ間、おばちゃんが「いま炊けたばかりだから」と、かぼちゃと厚揚げを煮たのを出してくれた。熱くておいしい。こういうのが最高にうれしい。

 嬉野温泉は湯豆腐が全国的に有名で、温泉水で煮る湯豆腐は、豆腐が次第に溶けてトロトロになる特徴がある。これをネギと生姜(しょうが)と削り節とゴマ醤油(しょうゆ)で食べる。このゴマ醤油の味が店によって違う。嬉野の湯豆腐はどこで食べても、すごくおいしい。

 肉うどんは、いわゆる九州うどんぽく、汁の色が薄く、麺がやわらかめ。そこに豚肉が並べてのっていた。すごくおいしそう。ボクは肉うどんは牛肉より豚肉が好きだ。

 さあ、ボクの定食も来た。味噌汁にはワカメと豆腐と青ネギが、モリモリに入っている。野菜炒めも、かまぼこの切ったのが入っていたり、東京で普段食べるのとはずいぶん違う。もやし、キャベツ、白菜、人参(にんじん)、玉ねぎ。よく考えたら、ちゃんぽんの上に乗っける野菜を醤油で炒めた感じだ。それだけで食べた時は少し塩(しょ)っぱかったけど、ご飯に乗っけて食べるとめちゃくちゃおいしい!米がうまいのだ。佐賀米、うまい。たぶん水もいいのだろう。やや固めに炊かれていたが、それが実にうまい。湯豆腐をのせて食べてもこれまたおいしい。時間をかけたトロトロではなかったが、豆腐そのものが十分うまい。

 今度は「皿うどん」を頼んでみたい。どんなタイプが出てくるんだろう?全部カタカナの「ヤキソバ」でビールを飲んでみたいとも思った。しみじみ食べて、おばちゃんの入れ直してくれた熱いお茶をゆっくり飲んだ。食後のまったりした時間が、旅先でなんとも贅沢(ぜいたく)だ。

 ◇あかつき食堂 今年で創業40年。チャンポン、皿うどん550円、肉うどん、カレーライス500円、野菜炒め450円、湯ドーフ350円。佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿乙353の1。(電)0954(43)1037。営業は午前7時〜午後6時。不定休。

 ◆久住 昌之(くすみ・まさゆき)1958年、東京都生まれ。漫画家、漫画原作者、ミュージシャン。81年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロにおいて「夜行」でデビュー。94年に始まった谷口ジローさんとの「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題に。舞台のモデルとなった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。

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