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【全国ジャケ食いグルメ図鑑】佐賀のがばい定食屋さん“未知の生物”がいっぱい

[ 2017年12月15日 12:00 ]

濃い青の暖簾に白抜きの店名が美しい。看板には店名は無く、飾り気ないシンプルなジャケットがいい!
Photo By スポニチ

 人気ドラマ「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんが外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。旅先では飾り気のない店にこそ、地元の人たちが愛する“ご当地料理”がある。九州・有明海の干潟にのみ分布する「エイリアンのような魚」をご存じですか。佐賀のがばいうまか(とってもおいしい)店で見つけました。

 佐賀県の嬉野に近い道路沿いを車で走っていて見つけた店。繁華街からは遠く、この店がポツンとあった。

 「お食事処 よらん海」。店構えをLPレコードのジャケットに見立てているボクにとって、暖簾(のれん)はタスキだ。濃い青のタスキに白抜きの店名が美しい。看板には店名はなく、焼物、定食とある。この飾り気ないシンプルなジャケットにむしろ、佐賀県の普通な料理が食べられるのではないかと直感した。隣に「かき焼処 よらん海」もあり、そちらはカキや海産物を炭火で自分で焼いて食べるような店だった。

 午後1時すぎだったが、何組かの客が長崎チャンポンを食べていて、ビールを飲んでいる一人客もいた。壁に貼られたメニューには「うどん」「焼そば」「チャンポン」「玉子丼」「親子丼」と並び、トンカツ定食や麻婆(マーボー)豆腐定食もある。値段も安い。ただ「くちぞこ定食」だけが「時価」だった。何だその定食は…。

 ボクは自分で運転していなかったので、ビールを頼む。ホワイトボードに書かれたメニューを見て驚いた。知らないものばかり。

 「スボ600円」。何それ?「うみたけ500円」。「エツ500円」。カニ漬。あみ漬。ミンチ天。冷凍クジラ。普通クジラは冷凍だろう。

 店員のおばちゃんに「スボって何ですか」と聞いたら、困った顔をして「うーん、どう言ったらいいの?エイリアン?」というので笑ってしまった。魚だというので、なんかグロテスクな形状なのかなあと思っていたら、実物を持ってきてくれた。干物だったが、実際に映画「エイリアン」のエイリアンに似ていたので、もう一度笑った。歯や頭の形がそっくり。見たことない。頼むと唐揚げにしてごま油などで味付けして出てきた。これが香ばしくて、おいしい。ビールのアテにバッチリ!

 エツは小さな平たい白身の魚で、これは素揚げして塩を振ったものだったが、これはクセがなくサクサクおいしくて、食べだしたら止まらない。「くちぞこ」も魚で、おばちゃんが冷蔵庫からビニールに入った現物を見せてくれた。

 300円とバカに安いクラゲも頼んだ。いわゆるクラゲ酢だったが、中華のクラゲ酢とはずいぶん違っていた。黒い縁があり、コリコリおいしい。

 店主のおじちゃんが出て来て、焼き海苔(のり)を出してくれた。これがまた物凄くおいしい。一番海苔と二番海苔では味や歯ざわりが違うと話してくれたが、佐賀なまりが強くて半分ぐらい何を言ってるのか分からなかった。それもまた遠方に来ている実感でうれしい。

 さらに「食べてみて」と食品保存容器に入ったものを出してくれた。店員の中国人の女性が「物凄くしょっぱい」と笑って顔を背けた。どうやら「カニ漬」と思われる。小さなカニの手足や砕かれた甲羅とカニ味噌が塩で漬けてある。確かにしょっぱいが、ちびちび食べたら日本酒には最高のアテだろう。この説明も、よく分からなかった。

 店内の壁には大きな魚拓や、ちょっと不釣り合いな船のかじもかけてあって、いかにも海が近い定食屋だ。でもしょうが焼き定食なんかもある。こういう店がボクはたまらなく好きなのだ。

 食事は迷った末、焼きそばを頼んだ。佐賀ではどんな味付けで出てくるか予想がつかなかったからだ。そしたら麺がチャンポンの太く縮れのない丸麺だった。味付けはソースでかつお節がかかっている。モヤシ、キャベツ、ニンジン、豚バラで実に庶民的な味で、まさにボクの大好きなタイプ!さつま揚げを薄く切ったのが入っているのも九州らしくてうれしい。

 佐賀に来て1軒目に入った店だがいきなり大当たりで、この日の佐賀観光はもう後は流しでいいや、と思ったくらいだった。佐賀、面白いぞ。

 ◇よらん海 海苔養殖業のご主人が2001年(平13)創業。奥さんが切り盛りしており「今の時季はカキが人気。夏はエビがおいしいよ」。くちぞこは舌平目(シタビラメ)。佐賀県杵島郡白石町遠江4296。(電)0952(84)3085。営業は午前11時〜午後9時も「お客さん帰るまでやるよ」。火曜定休。

 ◆久住 昌之(くすみ・まさゆき)1958年、東京都生まれ。漫画家、漫画原作者、ミュージシャン。81年、和泉晴紀氏とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロにおいて「夜行」でデビュー。94年に始まった谷口ジロー氏との「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題に。舞台のモデルとなった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。

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