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【全国ジャケ食いグルメ図鑑】英国料理にうまいものなし…いや、あった!

[ 2017年9月29日 12:00 ]

店主のこだわりが詰まった「SWAN&LION」
Photo By スポニチ

 人気ドラマ「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんが外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。2014年10月の連載開始から丸3年。「食堂・食堂・酒・食堂」となじみ深く実用的でタフな大衆の味ばかりを“連投”してきた中、初めてオシャレな店に突入!しかも、あまり評判が良くない英国料理。ついに血迷ったか、久住さん!?

 靖国神社の境内にシブい飲食店があったのを思い出し、季節もいいから外気を浴びて焼きそばとビールでも飲もうかと、市ケ谷にやってきた。でも周辺をあまり歩いたことがないのでブラブラ遠回りしていて、住宅街に見つけたのがこの店。

 この連載始まって以来のオシャレな店だ。シブい店が好きなボクだが、オシャレな店を避けているわけではない。カッコつけて中身が伴ってない店が大嫌いなだけだ。この店もすごくスタイリッシュだが、路地裏にあって目立たない。ひっそりと営まれている。

 ジャケがいい。薄いパステルグリーンの外装、鉄製で錆(さ)びた店名、吊(つ)るされた看板や植物、大きなガラス窓の控えめな英文字、木の取っ手が付いた鉄のガラス戸も統一感あるセンスに貫かれている。鉢植えのためのポリジョウロまで、店に似合っていてニクイ。見たことない形と色だ。

 店名も変わっている。白鳥とライオン。どういう意味があるのだろう?日本語は黒板の立て看板のみだが入りにくさはなく、どこか親しげ。窓際に「ふわふわスコーン」と「ふわふわフルーツスコーン」が置かれている。自家製だろう。おいしそうだ。

 ただ「ブリティッシュ・デリ」とある。イギリス料理にうまいものなしと聞く。実際、ボクもロンドンに行った時は英国外料理店にばかり行っていた。ここ大丈夫か?

 「ハーイ、コンニチハー!」とカウンターの中から笑顔で声をかけてきたのはイギリス人だろうか、外国人だった。もう一人若い日本人の女の子も働いている。狭い店だが、普通のパン屋とかデリとはずいぶん違う。中がガランとしていて、レジのそばに小さなショーケースと、カウンターの上に現物見本の調理パンが2つ。でもメニューを見ると、シチューやパイなどもある。壁際に、狭い小さな木のカウンター席がある。店内で食べられるか聞くと「狭イデスケド」と笑ってそこの椅子を引いてくれた。

 「シチューセット」を頼む。週替わりで2種類ある。カレーシチューとキヌアサラダと、ハーブチキン&トマトチャツネのサンドイッチを選ぶ。それとジンジャービール。初めて飲んだが実にさわやかで、普通のビールとは全然違ってジュースっぽい。なかなかおいしい。まだ残暑で、開け放ったドアからの秋の外気が心地よい。

 やってきた料理を見て目を見張る。まずサラダがタップリ。プチプチのキヌア、何かの小さな豆など、たくさんの野菜がドレッシングで和(あ)えてある。ウマイ!

 次にカレーシチュー。これもウマイ!トマトの酸味が効いたカレーだが、酸味が実にほどよい。入っている鶏肉がそれにすごく合っている。薄味なのにコクがある。

 何よりサンドイッチ。想像していたのと全然違う、丸パンサンド。まるで全体が食パンの耳のような感じで、噛(か)んだ時のキレがいい。すごく食べやすい。しかも香ばしく、具と口の中で一体になるとさらにおいしさが広がる。こんなサンドイッチは初めてだ!もちろんパンはここで焼いている。この一皿ですっかり感心した。このセットで800円(Mサイズ、Lは900円)は十分納得。とにかく野菜がたくさん摂(と)れるのがうれしい。

 こうなると別のものも食べてみたくなる。ショーケースから、コールスローサラダとコテージパイのセットを追加。このコテージパイが絶品。薄いパイの上にひき肉、その上にマッシュポテト。驚くべきはその上に白ネギの薄切りがのっていること。どんな?と思ったら、ネギは軽く炒めてあって匂いや刺激はなく、歯ごたえがマッシュポテトに絶妙。ともするとバターなどでコテコテになりがちなパイが、実にスッキリ軽く、いくらでも食べられそうだ。紫キャベツと人参(にんじん)のコールスローも味付けが実に上品。水をお願いしたら「炭酸入りですがいいですか?」と確認してから出してくれた。この炭酸が弱く飲みやすくてサッパリした。ここで買って千鳥ケ淵などまで歩いて、ベンチで缶ビールと食べるのも最高だろう。

 いやー、驚いた。意外だらけ。イギリスのおいしい料理。薄味。野菜たっぷり。そんな店が駅から遠い裏通りに。しかもそばには靖国神社。食べ終わって店を出てみれば、ジャケットが実に店の味を表していた。

 《店名の由来は王室紋章から》店名の由来は英国生まれの店主が、英王室の紋章にあるライオンと豪州移住時にファンだったフットボールチームにちなんでスワンを取り入れた。店のロゴには日本らしさを表す「松」と平和の象徴の「鳩」も描かれ、さまざまな食材も。英国料理の伝統を守りながらさまざまな国の食材などを取り入れる店のコンセプトを表している。

 ◇SWAN&LION(スワンアンドライオン) 2年前にオープン。夏みかんのマーマレードなど瓶詰商品も並び、久住さんはお土産にトウモロコシの自家製レリッシュ(864円)を購入。お店自慢の6種類あるミートパイは600円〜。東京都千代田区九段南3の5の4、市ケ谷駅から徒歩6分。(電)03(6884)3448。営業は午前11時〜午後6時30分。日祝定休。

 ◆久住 昌之(くすみ・まさゆき)1958年、東京都生まれ。漫画家、漫画原作者、ミュージシャン。81年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロにおいて「夜行」でデビュー。94年に始まった谷口ジローさんとの「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題に。舞台のモデルとなった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。

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