【全国ジャケ食いグルメ図鑑】「いわた食堂」大自然が彩る醤油ラーメン

北海道・羽幌町「いわた食堂」
Photo By スポニチ

　人気ドラマ「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんが外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。今からちょうど３０年前、民営化直前の国鉄における最後の路線廃止となった北海道・羽幌線。列車も駅も遠い記憶となった今も、地元の人々に愛され続けている食堂がかつての羽幌駅前にありました。

　北海道・羽幌町で見つけた食堂。

　ジャケット（店構え）的には比較的新しく、こじゃれた感じで、ぱっと見ボク好みのシブサや貫禄はほとんど感じられない。にもかかわらず、この店になんとも惹（ひ）かれるのは「いわた食堂」という屋号だろうか。その文字がシンプルに入った看板と暖簾（のれん）だろうか。

　店の前はきれいに掃き清められ、それに使われたであろう２本のほうきが入り口の左右に立てかけてあるのも、なんともほほ笑ましいじゃないか。

　土地の人に愛され続けて長い店なのではないかと想像される。

　店に入ると、思ったより広い。３０人ぐらいは楽に入れそうだ。昼時で、いろいろな世代のお客さんで混んでいる。

　奥の厨房（ちゅうぼう）がすごく広いのが、店内からよく見える。快活なお姉さんが笑顔を見せながら、何人もくるくると動き回っていた。その様子を見ただけで「この店はきっとおいしい」と思った。

　メニューは豊富だ。麺類は、中華もそば・うどんもある。ご飯ものはエビの産地らしく一番に「えび丼」があった。エビフライではなく、卵とじだそうだ。でもカツ丼もあり牛丼やチャーハンやカレーライスもある。おにぎりがあるのは、麺だけじゃ物足りない人が頼むのか。

　ボクはかなり迷って「野菜醤油（しょうゆ）ラーメン」を注文した。頼んでから店のお客さんを見ると、ラーメンの人はほとんど味噌のようだった。しまった、北海道なんだから味噌にすべきだったか、とも思った。でも醤油ラーメンの方が好きだから、いいや。

　メニューに後から付け加えたものと思われる一品に「ギョーザラーメン」があった。この日は同行者が何人かいたので、一人をそそのかしてそれを注文させる。どういうものか見てみたい。あと、テーブルで一皿チャーハンも頼んだ。

　やってきた野菜醤油ラーメン、醤油ラーメンの上に、別で炒めた野菜をどっさりのせたものだった。スープをすする。うまい！最近の濃厚味でなくあっさり系。麺をたぐる。お、しっかりしたちぢれ麺でおいしい！野菜もシャキシャキめでいい。刻み葱（ねぎ）がどっさりなのも嬉（うれ）しいじゃないか。これにして正解だった。

　さらにチャーハンがおいしかった。中華料理店のチャーハンとはちょっと違う「焼きめし」って感じの一品。米のかたさ、パラパラぐあい、味付け、卵の細かさ、三色のナルトが刻んで入っててグリーンピースは入っていない、というあたりまさにボク好み。付け合わせが福神漬けというのもカワイイ。

　笑ったのがギョーザラーメン。醤油ラーメン（これはみそにも塩にもできる）の上に揚げ餃子（ギョーザ）が４個、風車のようなフォーメーションでのせてある。どうなんだろうこれ。「餃子１個、いりますか？」と親切に言ってくれたが、ボクは残酷に「いらない」と断った。注文させておいて、ひどい男だ俺は。

　壁に集合写真がたくさん貼ってある。一クラス分ぐらいの若者。なんだろうと思ったら、毎年の成人式の集合写真だった。なんで？と聞いたら、写っているのは羽幌町の２０歳全員なんだそうだ。羽幌町の人口は現在約７３００人。町の大切な新成人というわけだ。１１年分あった。この店は１１年前くらいにリニューアルしたのかな、と思う。

　やっぱり厨房の開放感がいい。そこで働くお姉さんたちの様子が見えているというのが、この店の雰囲気を作っている。心がなんとも和む北の好食堂だった。

　◇いわた食堂　創業約５０年。えび丼７５０円、野菜醤油ラーメン７００円、ギョーザラーメン８００円。羽幌町自慢のエビとタコが入ったギョーザは４個２００円で、ラーメンなどに加えることができる。北海道苫前郡羽幌町南７条３丁目、沿岸バス「羽幌ターミナル」から徒歩５分。（電）０１６４（６２）１６７０。営業は午前１０時３０分〜午後８時、月曜定休。

　◆久住　昌之（くすみ・まさゆき）１９５８年、東京都生まれ。漫画家、漫画原作者、ミュージシャン。８１年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロにおいて「夜行」でデビュー。９４年に始まった谷口ジローさんとの「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題に。舞台のモデルとなった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。