落語を覚える3 ウォーキングのブツブツ作戦 一人稽古用に最適なのは…

[ 2024年4月30日 12:00 ]

カラオケボックスで落語の稽古
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 【笠原然朗の舌先三寸】落語を習い始めた。六十手習いだ。

 2018年に亡くなった落語家・桂歌丸さんり2番弟子、桂歌助さんが主宰している渋谷教室のメンバーに加えてもらう。何を演じるか自由に選んでよい、というので私は「たらちね」に決めた。

 京都のさるお屋敷で生い育った22歳(18歳、20歳のバージョンもある)の娘は、話す言葉がバカ丁寧。丁寧を通り越して何を言っているかわからない。そんな娘が大家さんの紹介で、長屋暮らしの独り者、大工の八五郎のもとへ嫁入りする。言葉も性格も対称的な二人の掛け合いが滑稽な噺だ。

 噺を覚えるにあたって8代目林家正蔵(のちの彦六)がYouTubeで演じていたものを書き起こし、テキストとした。

 歌助さんの教室では落語の覚え方は生徒さんの自由。自主性に任せる、が方針だ。

 「たらちね」はまくら、サゲまで入れて全体でおよそ15分ほど。 これまで私は演劇などの舞台に立った経験もなく、テキストを丸暗記することなどやったことはない。

 「縁は異なもの味なものと申しまして、ご夫婦がその通りで、他人と他人でございますから、それが生涯を共にしようというのでまぁご縁でも深い方でございましょうか」と正蔵は簡単な枕をふって噺に入る。

 たったこれだけの覚えるのに一苦労だ。

 噺をノートに書き取り、パソコン入力して、テキストとしてスマホに保存する。日課としているウォーキングの最中にそれを見てブツブツ言いながら頭の中に叩き込む。歩き落語だ。

 人間の脳で記憶を司る部位を「海馬」という。字面や音からして生き物のようだから「海馬にムチ打つ」つもりで繰り返す。

 何で見たのか覚えていないが、落語家の立川談笑が言っていた。

 「噺を行ったり来たりしながら頭の中に入れていく」といった趣旨の話だ。

 受験勉強もそうだった。たとえば英単語。単語集をまるまる一冊、アファベットの「A」から覚えようと思ったら、「A」を暗記し、「B」に進み、そこで「A」に戻っておさらいし、「B」をさらに覚える、という方法をとっていたように思う。

 ウォーキングのブツブツ作戦の他、電車内などでは何度も噺を聴き返した。

 「海馬よ、よみがえれ!」

 落語を覚えるという作業も、新鮮で楽しい。老化する一方の脳の活性化にも役立ちそうだ。そういえば落語家の方には80歳を過ぎてもお元気で高座に上がっている方も多い。

 そして一人稽古用でときたま利用したのはカラオケボックス。ここなら周りを気にせずに声が出せる。料金はフリードリンクの2時間利用で880円。

 「おっさんが一人で歌うなんてキモい」などと思われはしないかと、初めて入るときはためらいもあったが、お一人様男子は結構、いるようだ。調子はずれの声でアニメソングを熱唱していたオヤジもいた。それにしてもよりによって「アタックナンバー1」はやめて欲しいな。

 スナックなどでカラオケを歌おうと思ったら数千円からへたをすると1万円はとられる。カラオケボックスは安いストレス解消の場である、と思った。

 ウォーキング&ブツブツで覚えたつもりも、カラオケボックスで大きな声を出して演(や)ってみると勝手が違った。言葉が途中でつかえる。滑舌が悪い。後から後から問題点が雲霞のように湧き出してくる感じだ。

 あっという間の2時間。だが汗をかきながら長距離を歩き通したような爽快感がある。
 

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