羽生九段 持ち時間温存で藤井の終盤力に対抗

[ 2023年1月23日 05:27 ]

第72期ALSOK杯王将戦7番勝負第2局第2日 ( 2023年1月22日    大阪府高槻市 摂津峡花の里温泉・山水館 )

A図
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 【関口武史・明暗この一手】初日は積極的な動きを見せ、攻勢を色濃く印象づけた羽生九段の封じ手は▲2一飛。2日目も羽生の攻勢がしばらく続くかと思われたが、52分の考慮で指された藤井王将の△5五馬という中空に構えた手を境に、戦局の色が変わり始める。

 馬引きによって羽生は、懸案事項の攻め駒の補充を優先するか、寄せの速度を優先するかの選択に迫られた。果たして羽生は▲5六銀(A図)~▲1三竜と強気に踏み込み、藤井陣を目指す手を選択する。羽生の攻め、藤井の受けの構図から、両者攻め合いへと様相を変え、難解な終盤戦へと突入した。

 藤井に攻め駒の銀を渡す決断はあまりに重い。銀を手駒に加えた藤井は△2四角と攻防の好位置に据え、昼食休憩を挟む85分の長考で、△7七銀と強烈な勝負手を放つ。先手陣に頓死の筋が現れ、控室の検討にも熱が入る。

 続いて△7八飛と近づけて打つ意表の一手で羽生陣に肉薄。少ない持ち時間の中から、惜しみなく時間をつぎ込んで追い込む藤井の指し手は迫力満点。だが、この競り合いの展開を制するために、羽生は初日から持ち時間を温存する戦略を立てていた。

 ▲4六歩と角を呼び込んでの▲6九銀が受けの決め手。通常は▲6九香と受けたいのだが、本譜と同様に進行した場合に△6八飛成と受けた香車を取られる変化が発生し、藤井に逆転を許してしまう。

 藤井の猛攻を受け止める▲5七銀打を選択するための▲7七同金に72分、▲4六歩に41分、▲6九銀に21分。立て続けに持ち時間を投入し、慎重に慎重を重ねた考慮で勝利を手繰り寄せた。

 羽生が描いた、藤井の終盤力に対抗するための戦略が見事に実った一局となった。序盤の戦術で戦局の構図を定め、藤井の終盤力に時間を残すことで競り勝つ。歴戦の雄、羽生の名局の誕生だ。 (本紙観戦記者)

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