石川さゆり 新曲「獨り酒」の歌の極意

[ 2021年9月2日 09:40 ]

ニューシングル「獨り酒」を発売した石川さゆり
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 【牧 元一の孤人焦点】歌手の石川さゆりがニューシングル「獨り酒」を発売した。

 作詞が喜多條忠氏とKinuyo(石川さゆり)、作曲が浜圭介氏。コロナ禍で夜の会合が難しい昨今、♪淋しいねぇ 淋しいよぉ ため息まじりの 夜泣き鳥…などの歌詞が胸に響く曲だ。

 石川さゆりはこう話す。

 「今は友だちと集まるのもダメ、ご飯を食べるのもダメ、お酒なんか飲んじゃダメと言われています。でも、お酒自体が悪いわけじゃない。お酒はいろんなことを優しく包んでくれます。お酒を飲んで愚痴を言う。泣き上戸、笑い上戸、それもいいじゃない。そういう歌を、心地よく聴いてもらったり歌ってもらったりする日常が早く戻ればいいな、という思いから、この歌を作りました。音楽、歌はいつも自由でありたいです」

 この歌は、こぶしが軽やかに回って演歌調だ。ところが、本人には演歌を歌っている感覚はないのだという。

 「何をもって演歌かという定義があまり良く分からないんです。今これを届けたい、今これをみなさんに聴いていただきたい。そういう思いがあるだけです。私の歌には『ウイスキーが、お好きでしょ』やルパン三世のエンディングテーマ『ちゃんと言わなきゃ愛さない』もあります。『風の盆恋歌』も、演歌かと言えば、そうじゃない気がします。なんか良く分からないし、技巧的に演歌を作ろうとすることが好きじゃないというのもあります」

 ヒット曲「津軽海峡・冬景色」「天城越え」などで演歌の王道を歩んでいると思われがちな歌い手の言葉として興味深い。

 「歌の色はスタジオで作ります。事前に何も決めないで行きます。スタジオに入って歌ってみないと、どうなるか分からないからです。ボーカルのレコーディングはオーケストラとは別に設定されているんですけど、私はオーケストラの時にも必ず行って歌います。みなさんの演奏を聴いて初めて声を出して、そこで探って歌い方を決めます。演奏の音が私の声を引っ張って行くこともあるし、演奏の音も私の声で変わります。お互いの呼吸を共有する感じで、そこがいちばん緊張感があって、楽しいところでもあります。結果的に、その時の歌が採用されることがよくあって、私は『仮歌のさゆり』とよく言われるんです」

 予断を持たずにレコーディングに臨み、演奏の音を聞いて歌唱法を決める…。どのアーティストでもできる芸当ではない。来年にデビュー50周年を迎える歌い手の匠の技、もしくは、天性の才能と言える。

 「10代の頃、阿久悠さん、三木たかしさんに歌を作っていただいて、スタジオに入ると、まず、いろんな会話をしたんです。『この女性は旅に出た時、どんな格好だったと思う?』『どんな格好だろう…』『トランクを持っていた?バックひとつ?』という感じ。よくよく考えていくと、その女性が計画的に旅立ったのか、衝動的に旅立ったのか、歌の中の人物が立ち上がって来ます。その女性の体つきや服装、背負っているもの…。そんなことを話しているうちに時間がなくなって『じゃあ、また明日』なんてこともありました。いま思えば、とてもぜいたくなスタジオの時間でした」

 シングルは今作が129曲目。歌い手として経験を積み重ねて来た到達点だ。

 「次も、もう考え始めています。いま感じることをお届けしたいと思っています」

 近い未来に、さらなる高みの歌を聴かせてくれそうだ。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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