「おかえりモネ」朝ドラ異例のヒロイン台詞なし 清原果耶“本番一発撮り”提案 内野&西島競演に泣き笑い

[ 2021年8月19日 08:15 ]

連続テレビ小説「おかえりモネ」第69話。耕治と朝岡の“告白”に耳を傾ける百音(清原果耶)(C)NHK
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 俳優の内野聖陽(52)と西島秀俊(50)が19日に放送されたNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」(月~土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)第69話で今作初の同一シーン共演を果たした。2019年4月期に話題を呼んだテレビ東京の深夜ドラマ「きのう何食べた?」にダブル主演した“盟友”が朝ドラ初競演。15分ほぼ全編にわたり、笑いあり涙ありの2人芝居を繰り広げた。ヒロイン・清原果耶(19)は異例の台詞なしも自ら“本番一発撮り”を提案し、表情だけで名演。今回が朝ドラ演出デビューとなった同局・押田友太監督(32)に舞台裏を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 朝ドラ通算104作目。清原とタッグを組んだNHK「透明なゆりかご」やテレビ東京「きのう何食べた?」などで知られる安達奈緒子氏が手掛けるオリジナル作品。朝ドラ脚本初挑戦となった。タイトルにある「モネ」は主人公・永浦百音(ももね)の愛称。1995年に宮城県気仙沼市に生まれ、森の町・登米(とめ)で青春を送るヒロイン・百音が気象予報士の資格を取得し、上京。積み重ねた経験や身につけた技術を生かし、故郷の役に立ちたいと奮闘する姿を描く。

 押田監督は2013年に入局し、初任地は広島放送局。17年から東京のドラマ部。大河ドラマ「西郷どん」(18年)、朝ドラ「なつぞら」(19年)の助監督を経て、今回、「おかえりモネ」第14週「離れられないもの」(8月16~20日)で朝ドラの演出を初担当した。

 第14週は、朝岡(西島秀俊)がスポーツ気象に専念するため、Jテレのニュース番組「あさキラッ」「ニュースナイトJ」の気象キャスターを降板。「あさキラッ」の後任は莉子(今田美桜)。莉子が担当していた中継キャスターに、百音(清原)の名前が挙がる。その数日後、耕治(内野聖陽)と龍己(藤竜也)がカキの品評会のために上京。汐見湯も訪れ、百音や菅波(坂口健太郎)、菜津(マイコ)らにカキを振る舞う。翌日、娘の職場を見学しようと、耕治がウェザーエキスパーツに足を運ぶと、1階の「お天気ふれあいコーナー」で朝岡と出会う…という展開。

 耕治は故障した「竜巻マシーン」を修理しながら、朝岡と世間話。初対面だったが、朝岡はふと後悔や悩みを耕治に打ち明ける。朝岡は8年前、記録的な大雨に見舞われた明岩市石音町(※架空の町)に「川の増水も報告されていますし、深夜の移動はとても危険です。このまま、ご自宅の2階など浸水の心配がない場所で過ごされた方がよいでしょう」と最大級の警戒を呼び掛けたが、大規模な土砂災害が発生。集落は埋まり、犠牲者が出てしまった。以来、災害が起きる土地に暮らすことについて考えていた。

 朝岡「長く住んでいるのは東京ですが、子どもの頃は父親の仕事で転々と。だから私にはハッキリと地元と呼べる場所がなくて。答えが出ない問題にはまっています。(8年前の回想)。自分のせいだなんて、青臭いことは言いません。私はあの時点での最善を尽くした。そう言えないとしたら、それは無責任です。ただ、何度も繰り返すんです。ようやく元に戻ってきたところで、また災害が起きる。私は薄情なので、何も好んで、そんな土地にとどまることはない。離れればいいじゃないか、と。土地へのノスタルジーなんて、命には換えられないだろう、と。でも、命を引き合いに出して、大事なものを捨てろなんて迫るのは、部外者の暴力でしょ」

 耕治「いやぁ。ははは。参ったなぁ。オレも思ってましたよ。離れたいって。自然なんか、本当、思い通りにならないしね。思ってても、離れられない。オレが言う資格、ないかもだけど、ただ、親父(龍己)なんか見てっとね、別に海とか、土地にだけ根付いているわけでもないんだろうなぁって、時々思うんです。人なのかなぁ。分かんない。そこに生きてきた人たちの、顔も声も知らない、何十年、何百年と産み育ててくれた人たちの、愛情つーか、その思いに報いなきゃって。何か、厄介な親子の情みたいなものがね、何かこう、染み付いてんでしょうね。いえ、しかしね、その呪縛もまた、これ怖いもんです。オレなんか、漁師なんか割に合わねぇ、これからは経済だ!音楽だ!って出ていったにもかかわらず、結局戻ってる。中途半端に。ははははは。だからね、娘(百音)が東京で自由に楽しそうに仕事してるの、ホントうれしいんです。娘たちは希望だ。もう1人いるんですけどね、頑張り屋さん(未知)がね。でも、娘たちだけじゃねぇな。子どもたち全員にこう、言ってやりてぇ。どうなっか分からねぇ世の中だ。どこ行ったっても構わねぇ。ただ、おまえたちの未来は、明るいんだって。決して悪くなる一方じゃないって。オレは信じて、言い続けてやりたい。何だか、語りすぎちゃったね」

 結局、竜巻マシーンは直らず、耕治は「やっぱり中途半端な銀行員なんで、ダメですね、私」と苦笑い。朝岡は「いえ、ありがとうございました」と耕治との出会いに感謝した。

 耕治の「子どもたち全員にこう、言ってやりてぇ。どうなっか分からねぇ世の中だ。どこ行ったっても構わねぇ。ただ、おまえたちの未来は、明るいんだって。決して悪くなる一方じゃないって。オレは信じて、言い続けてやりたい」という台詞。押田監督は本読みの段階から「泣いてしまいました」というほど内野の演技に感動した。「いろいろなことが大変になっている世の中で、凄く若者たちを励ましてくれる安達さんの台詞を基に、内野さんが魂を込めて演じてくれました。内野さんは、まさにこの週の救世主。内野さんが話す1つ1つの言葉に本当に心動かされます。それは役者さんとして当たり前なのかもしれませんが、すべてのシーンに全力でぶつかってきてくれるからだと思います」

 西島については、時に台詞以上に雄弁な、微妙な表情の演技に感嘆。8年前の回想シーン。朝岡は石音町に足を運び、甚大な被害を目の当たりに。泥だらけの靴のまま、東京のJテレに戻ってくる。気象班フロアにいるスタッフは、朝岡の茫然自失の姿に驚く。「この時の背中と、イスに座った時の表情がすべてを物語っていて、現場の凄惨な描写は描かれていないですが、現場に出向いて経験したであろう徒労感がひしひしと伝わってきます」

 そして、偶然2人の会話を立ち聞きしてしまうことになった百音は泣き笑い。実は台本上は、この部分は「…」とだけ表記されている。「ヒロインが冒頭のリフレインを除いて1つの回で一言も台詞を話さないのは、朝ドラ史上でも稀だと思います。安達さんが清原さんに全幅の信頼を寄せている証拠です」。となれば、安達氏の期待に応えるような感情の起伏をどう演じるか。押田監督はヒロイン・清原と話した上で、本人が“本番一発撮りしたい”と提案してきたと明かし、絶賛した。

 「実際に一発撮りをして、この回の百音の一連のシーンは顔のアップから撮りました。清原さんは、耕治さんと朝岡さんのやり取りを丁寧にすくい取ってリアクションをしてくれました。なので、台詞がないシーンにもかかわらず、その表情の変化だけですべてを語ってくれています。清原さんの表現力の豊かさをあらためて実感しました」

 押田監督は、清原がヒロイン・奥原なつ(広瀬すず)と生き別れた妹・千遥役を好演した「なつぞら」で助監督。第147話(19年9月18日)、姉妹は28年ぶりに再会。姉から渡された戦死した父(内村光良)の手紙と家族の絵を目にし、千遥は涙した。「撮影するのに苦労するような難しいシーンがたくさんあったんですが、周りのキャスト・スタッフみんなが清原さんを応援する雰囲気になっていったのが印象的。その時、『この方は、いつかヒロインになるんだろうな』と思いました。朝ドラに初めて参加したのが『なつぞら』で、今回、初めて朝ドラを演出して、こうして清原さんとまたご一緒できたのは凄くありがたかったです」と感慨深げに振り返った。

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