楽天・内星龍 母校・履正社にTシャツ差し入れ コロナ禍で立てなかった夢舞台…恩師・多田監督への恩返し

[ 2023年8月11日 08:00 ]

<鳥取商・履正社>楽天・内から贈られたTシャツで応援する履正社の控えメンバー(撮影・岸 良祐)
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 目覚めてテレビをつけると甲子園の中継が放送されている。そんな日常に幸せを感じる季節だ。全ての代表校のナインを応援しているが、記者は毎年、出身地・大阪の代表校を特に注目してしまう。

 今年は履正社が大阪大会の決勝で大阪桐蔭を破って4年ぶりに聖地への切符を手にした。同校OBの楽天・内星龍投手(21)は「めっちゃうれしいです。甲子園でも全国制覇を目指してほしい」と後輩たちにエールを送る。内が3年生だった20年はコロナ禍の影響で夏の甲子園が中止になった。地方大会は「独自大会」という形で開催され、大阪府の独自大会を制したのが履正社だった。

 決勝で大阪桐蔭を撃破し、本当なら履正社ナインの3年生たちには夢舞台で「最後の夏」の続きがあったのだが…。内は「僕は大会で投げる機会がほとんどなかったけど、それでもめちゃくちゃ悲しかったです。優勝してうれしいはずなのに“これで終わりか”という感じでしたね」と当時を振り返る。

 19年夏、履正社は甲子園で全国制覇を成し遂げた。2年生だった内はアルプス席で声をからしながら先輩たちのプレーを懸命に目で追った。「来年は自分があのマウンドに立って優勝投手になるんや」と誓った1年後、甲子園大会そのものが中止になるという残酷な未来が待っていた。悔しさ、悲しさ、怒り、やり場のない絶望感。野球に青春を捧げた高校生が簡単に受け入れられるものではなかったが、内は「あの経験から学んだことはあります」と言う。

 履正社の多田晃監督(45)は、内が在学時はコーチという立場だった。さらに、高校3年間の担任の先生でもあり、野球の指導だけでなく学校生活や進路の相談にものってもらった。独自大会が終わって失望に暮れている中、プロを目指す高校3年生を対象にした「合同練習会」(甲子園)への参加を勧められ「最初は参加しないつもりだったけど、背中を押してもらった。あの練習会があったからこそプロ野球選手になれた。多田先生がいなかったら今の自分はいないです」と感謝は尽きない。

 多田監督にとって就任後初となる夏の甲子園出場とあって、内は応援の気持ちを記念Tシャツの差し入れという形で表現した。大阪大会で優勝した直後にスポーツメーカーに発注し、デザインについても何度も担当者と話し合った。準備期間は限られていたが、開幕前に100枚のTシャツが部員たちの元へと届けられた。

 「今回はOBの先輩方と合同という形ではななくて、自分一人で監督さんと後輩たちのために何ができるかを考えました。多田先生からは“Tシャツ、ありがとう”と連絡をいただきました」

 履正社は大会2日の1回戦で鳥取商に6―0で勝利し、2回戦へと駒を進めた。アルプス席では控え部員たちは内が差し入れたTシャツ姿でバッチリそろえて応援した。内は「僕が2年生の時は山田哲人さんやOBのプロ野球選手から記念Tシャツをいただいて、めちゃくちゃうれしかったことを覚えています。後輩たちが喜んでくれたらうれしいですね」と微笑んだ。

 野球ができることも、大会が開催されることも、決して当たり前じゃない。内のように3年前に絶望と向き合った「ロスジェネ世代」の元球児たちは、甲子園の中継を見ながらそう思っているのではないだろうか。(記者コラム・重光 晋太郎)

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