【内田雅也の追球】黒星地獄…それでも野球は続く 阪神には野球の素晴らしさ伝える使命がある

[ 2022年4月11日 08:00 ]

<神・広>9回 無死二塁 二塁ゴロを打つ糸井(投手・栗林)(撮影・成瀬 徹)  
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 零敗のなか目がいくのは先頭打者が出た、最初と最後の攻撃である。

 1回裏、近本光司が中前打で出た無死一塁、中野拓夢に打たせた。前日は同じ状況で送りバントだった。昨季までの積極采配が見える「打て」だった。結果は遊ゴロ併殺打と最悪だったが「俺たちの野球」を貫こうとする姿勢は見えた。

 「監督、昨日(9日)の新日本プロレス、すごかったんですよ」。試合前、関係者通路で監督・矢野燿大に出会った球団職員が話しかけた。IWGP世界ヘビー級王者オカダ・カズチカが挑戦者を退けた試合。関節技で右腕を繰り返し攻められ、苦しみながら、最後はその右腕をのど元にたたきつける得意技「レインメーカー」で倒した。

 「最後の最後まで、自分の信じる得意技を貫いて勝ったんです」。少しでも監督を勇気づけようとする思いからか、身ぶりを交えて熱弁した。

 だから、積極采配がよみがえった、などとは書かない。ただ、フロントも含めて、気持ちは前を向き、何とかしようとする思いは伝わってくる。

 1点を追う9回裏は、先頭・中野が左前打で出塁。続く糸井嘉男はむろん強攻策で、2ストライク目が暴投となり無死二塁となった。糸井はバットを指1本分短く持ち直し、栗林良吏のフォークに食らいついた。何とか引っ張って転がし、二ゴロ進塁打とした。懸命で献身的な姿勢に、万雷の拍手が銀傘に響いた。

 1死三塁から佐藤輝明、大山悠輔が連続三振で万事休したが、本当にあと少しなのだ。投手陣の好投、近本光司、小幡竜平の好守備もあった。

 好天の日曜日。連日の「大入り袋」が出た一戦だった。満員観衆も青空も黒土も緑の芝も…甲子園は美しかった。

 試合後、3万8千余の観衆が退場する時、場内に『What A Wonderful World/この素晴らしき世界』(ルイ・アームストロング)が流れていた。ベトナム戦争を嘆き、平和な世界を夢見て、緑の木々、青い空、白い雲……を描いた名曲である。

 黒星地獄であえぐが、それでも試合は続いていく。そして野球は素晴らしい。多くのファンが見守る阪神には、その素晴らしさを伝える使命がある。 =敬称略= (編集委員)

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2022年4月11日のニュース