NPBが導入したリクエスト制度に潜む危険性

[ 2018年4月8日 09:38 ]

<楽・ソ2>6回1死、デスパイネの三ゴロの判定にリクエストをした工藤監督だが判定は変わらず苦笑い
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 【君島圭介のスポーツと人間】リクエストは日本野球機構(NPB)が今季から導入した新制度だ。本塁打の判断やすべての塁でのアウトやセーフの判定に対し、当該試合の監督が審判員に対して9回までに2度(延長戦では1度)リプレー検証を求めることができる。

 セ・パ両リーグの開幕以降、多くの試合でリクエストが行使された。審判団の検証中に球場の大型ビジョンでリプレー映像が再生されるため、ファンも結果を予想し、一喜一憂できる。エンターテインメント性はあるが、問題点もある。4月7日の楽天生命パークの試合が、新制度がはらんでいる重大な危険性を浮き彫りにした。

 それは楽天―ソフトバンク戦の5回1死走者なしの場面で起きた。デスパイネの三ゴロに対し、楽天・一塁手の今江の足が捕球の瞬間にベースから離れていたのではないかとソフトバンクの工藤監督からリクエストがあったのだ。

 確かに大型ビジョンが再生した映像は微妙だった。今江の捕球と足が離れる瞬間はほとんど同時に見えた。直後にデスパイネが一塁上を走り抜けている。

 結果は当初の判定通りのアウトになったが、今江は言った。「僕の一塁守備が不慣れなせいもあるかもしれないけど、僕もケガで苦労した。足を踏まれるのは怖い」。デスパイネのような体重100キロ近い巨漢が全力疾走で向かってくる中、視線を送球に向けたまま走路に足を置いておくことは恐怖でしかない。一塁を守るほとんどの選手は共感するはずだ。同時に一塁手の足は走者にとっても危険な障害物である。

 過去の試合を検証すれば、同じケースで捕球より早く足をベースから離しているケースは山のように出てくる。これまでは危険を回避するためなら審判の裁量でアウトとみなされてきたからだろう。ところが、リクエストされれば審判も「みなし」ではなく、映像で正確に判定しなければいけない。

 この制度を悪用する者はいないと信じるが、試合中なら「ひとつのアウト」「1本のヒット」のために我が身を危険にもさらすのがアスリートの本能だ。新制度の問題点が早期に発見されたのは幸運ではないか。NPBはただちに「一塁手の足」に関しての救済的な例外判定を明文化すべきだ。(専門委員)

 ◆君島 圭介(きみしま・けいすけ)1968年6月29日、福島県生まれ。プロ野球やJリーグのほか、甲子園、サッカー選手権、花園ラグビーなど高校スポーツの取材経験も多い。現在はプロ野球遊軍記者。

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