清宮を苦しめたインハイ秘話 精神力、観察眼に素直に感動

[ 2017年4月8日 10:30 ]

<東海大福岡・早実>安田(1)ら東海大福岡ナインと握手をかわす早実・清宮(中央)
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 日本ハムを担当していた09年、ダルビッシュ(現レンジャーズ)からこんな話を聞いたことがある。当時、打撃で苦しんでいた中田が今後不振を脱して成長していくためにはどうしたら良いかという趣旨の質問に、ダルビッシュは「インハイを打てるようになること」と答えた。「これを打たれれば、投手は投げるところがなくなる」。

 裏を返せば、必殺球になる内角高め。今年のセンバツで東海大福岡・安田VS早実・清宮を見て、ダルビッシュの言葉を思い出した。そして、「インハイ」は相当な制球力と強い精神力がないと投げられないということを痛感した。

 東海大福岡バッテリーは、清宮の打席になると捕手・北川が頻繁に中腰の姿勢になり、内角高めに構えた。中途半端な球なら即座に被弾、死球の恐れだってある。しかし制球力への自信が、その恐怖を乗り越えさせた。試合後の北川の証言が興味深かった。

 「開会式で隣にいた福岡大大濠の古賀君(捕手)に、どんな感じだった?と聞いたら“ローボールヒッターだよ”と教えてもらった」。福岡大大濠は昨秋の明治神宮大会で早実と対戦していた。

 同県のライバルから得た情報ももとに、清宮の第1打席初球で外角低めシンカーを選択。「バットが出てこなかったので低めは見えていると感じた」。2球目は、腰を浮かせてインハイ。「ファウルしたときに“しまった”という表情が見えたので、やはり苦手なのかな、と。スイングの軌道も下からすくい上げる感じですし。その打席で高めで(三塁への)フライに打ち取れたのが大きかった。それが今日の配球につながりました。(バットの)グリップの高さを狙って投げていました」。6、8回と結果的に長打は許したが、フルスイングは許さなかった。

 一方で、清宮を苦しめたハイボールの秘話にも驚いた。再び北川の話。「(エースの)安田はタイプ的に高めを投げることはほとんどない。昨日のブルペンでつくりあげた。でも、高めの練習をしたのは2、3球。構えたところへ来たので大丈夫だろうと。だから、清宮君以外の打者の対策を入念にした。初球は外角に遠く外すことを徹底。だから余計に次のインハイが近く、甘く感じたのかもしれないですね。安田の制球力があったからこそ、そこを要求できた」。

 狙ったところに投げる。プロのレベルなら、できて当然のことかもしれないが、シンプルなようで一番難しいことだ。地道に積み上げた練習の成果を大舞台で発揮し、強打者に動じなかった精神力や冷静な観察眼に素直に感動した。そして、野球の奥深さを知った。

 試合後、インタビューやクールダウンを終えた清宮は整列すると下を向き、ぐっと唇をかんで、ものすごく悔しそうな顔をしていた。まだ夏にチャンスがある春の終わりとはいえ、感情のままに涙を流した1年夏とは全く違う表情だった。清宮のこんな表情を引き出した東海大福岡バッテリー。そして悔しい思いをした清宮。それぞれ、どんな夏に向かっていくのだろうか。(記者コラム・松井 いつき)

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2017年4月8日のニュース