元幕内・水戸龍引退「安全第一」で十両在位40場所 無欲の中にも関取の誇り…場所前に明かした思いとは

[ 2025年9月20日 12:26 ]

水戸龍
Photo By スポニチ

 日本相撲協会は19日、元幕内・水戸龍(31=錦戸部屋)が現役を引退したと発表した。今場所は西幕下7枚目で初日から休場していた。

 水戸龍は2018年初場所の新十両昇進から7年半、幕内との往復も何度か繰り返しながら関取の座を守り続けてきた。慢性的に腰痛を抱えており、稽古がほとんどできないながらも十両では安定の強さを発揮。新十両昇進から2022年秋場所の新入幕まで、十両連続在位27場所という歴代6位タイ、平成以降では最長の珍記録も打ち立てた。昨年夏場所を最後に幕内から遠ざかり、膝のケガも重なって徐々に番付を下げていってついに今場所幕下に転落。8年間の力士人生に終止符を打つ決断を下した。

 2010年春にモンゴルから来日したバーサンスレン・トゥルボルド。ガンエルデネ(のちの横綱・照ノ富士=伊勢ケ浜親方)とイチンノロブ(のちの関脇・逸ノ城)と同じ飛行機でやって来て鳥取城北高に相撲留学した。当初は相撲未経験で細身の少年。高校では出場機会に恵まれなかったが、全国大会デビューとなった3年秋の全国選抜宇佐大会で3位、国体で準優勝と大器の片鱗を示した。日大では1年時からレギュラーで活躍。東日本新人戦優勝を皮切りに、世界選手権や全日本選手権、全国学生選手権など計9つのタイトルを獲得した。将来の横綱、大関を期待されて鳴り物入りで大相撲の世界へ。「水戸龍」として幕下15枚目格付け出しでデビューし、所要わずか4場所で関取昇進、その4年半後には幕内にも昇進した。

 水戸龍が幕内昇進を決めた2022年名古屋場所は、同級生で盟友の逸ノ城が初優勝。千秋楽まで優勝を争った相手もまた、同級生の照ノ富士だった。2人の活躍に刺激を受けて少しでも早く追いつくために…という心境かと思えば、本人はそれほど出世を望んでおらず本当に「無欲」だった。場所の序盤に目標を問うと、返ってくる答えは関取残留への最低限の勝ち星。勝ち越しや2桁勝利といった高望みはせず、ケガなく土俵に上がり続けることを目標としていた。座右の銘は「安全第一」。勝負の世界に生きる力士としては珍しい考え方だが、それも水戸龍の魅力だった。昨年春場所では、ケガから復帰途上の若隆景や伯桜鵬を破って12勝3敗で十両優勝。ポテンシャルの高さを発揮した象徴的な場所だった。

 幕内へ上がることに対してそれほど意欲を見せなかった水戸龍だが「幕下に落ちたら引退する。幕下に落ちてまで取りたくない」と常々口にしており、関取の座を守ることには強い思いを持っていた。名古屋場所は初日から4連敗して5日目から休場。幕下転落が確実となった時点で引退を覚悟し始めていた。幕下力士は黒まわしを着用しなければならないが、新調しなかったという。「支度部屋行って自分の場所がないのも嫌だな…」。初土俵からの4場所しか幕下生活は経験しておらず、支度部屋に明け荷が用意されていない状況で土俵に上がる決心がつかなかった。そこには、関取の座を7年半守り続けてきたプライドもあった。

 引退を心に決めていたが、場所前の稽古には参加。弟弟子たちに胸を出した。現在、錦戸部屋の所属力士は自身を除いて4人。かつては所属力士が水戸龍だけとなり、1人で黙々と基礎運動を繰り返すしかない日々もあった。稽古相手がいない寂しさを誰よりも知っている水戸龍。だからこそ、最後まで弟弟子たちの指導に携わろうとする優しさを見せていたようだ。

 学生時代はアマチュア横綱と学生横綱に輝くなど世代最強選手。同学年には、若隆景(大波渥=東洋大)、友風(南友太=日体大)、炎鵬(中村友哉=金沢学院大)、矢後(矢後太規=中大)、朝志雄(村田亮=東洋大)らがいた。5人とも角界入り後に大ケガを経験し、劇的な復活を遂げたり現在復帰途上で必死にもがいていたりと奮闘している。対照的に水戸龍は、最高位こそ前頭13枚目にとどまっているが長期休場することなく長く関取の地位を保ち続けた。もっと上を目指す気持ちがあれば、もっと稽古していれば三役以上になっていた…そんな周囲の声もあるが、マイペースを貫いたからこそここまで続けてこられたのだろう。力士人生も人それぞれ。心優しい性格、ユーモアのある独特のコメント、たまに見せる気迫の相撲…全てが魅力にあふれた名力士だった。

 ◇水戸龍 聖之(みとりゅう・たかゆき)本名=バーサンスレン・トゥルボルド。1994年(平6)4月25日生まれ、モンゴル出身の31歳。15歳で来日し、鳥取城北高に相撲留学。3年時に全国高校選抜宇佐大会3位、国体準優勝。日大1年時に東日本学生新人戦優勝、全国学生体重別無差別級優勝、全日本選手権3位。2年時に世界選手権(モンゴル代表)無差別級優勝。3年時に全日本選手権優勝(アマチュア横綱)。4年時に全国大学選抜宇佐大会優勝、全国選抜大学社会人対抗和歌山大会優勝、世界選手権(モンゴル代表)無差別級優勝、全日本大学選抜十和田大会優勝、全国学生選手権優勝(学生横綱)。錦戸部屋に入門し、幕下15枚目格付け出しで2017年夏場所初土俵。2018年初場所で新十両昇進。2022年秋場所で新入幕。幕内在位5場所で27勝44敗4休。十両在位は40場所。通算成績332勝332敗42休。十両優勝1回。身長1メートル90、体重195キロ。

続きを表示

「羽生結弦」特集記事

「テニス」特集記事

スポーツの2025年9月20日のニュース