ポストW杯のラグビー欧州6カ国対抗をエディーが展望「何か変化が起こる」WOWOWで全15試合生中継
ラグビーの欧州ナンバーワンを決める欧州6カ国対抗(シックスネーションズ)は2日(日本時間3日)、昨秋のW杯開催国だった世界ランキング4位のフランスと、同2位のアイルランドとの対戦を皮切りに、全15試合の熱い戦いの火ぶたが切って落とされる。衛星放送局WOWOWでは、今年も全試合のライブ中継・配信を予定している。
今回、開幕を前に1月1日付けで9年ぶりに日本代表のヘッドコーチ(HC)に復帰したエディー・ジョーンズ氏(63)が同局のインタビューに応じ、今大会の展望、注目選手、さらには23年W杯の振り返り、日本代表の今後や課題について語った。
――元日、正式に日本代表HCに就任した心境をお願いします。
「再び日本代表のコーチに就任するのは特別であり名誉なことです。15年W杯以降、日本はとてもよくやっています。19年W杯では準々決勝に進んでいますし、23年W杯でも非常に注目されていました。ただ、日本を世界のラグビーにおいてさらに高い位置へ引き上げていくためには、まだ課題が多いことは誰が見ても明らかです。私は日本がより強くなるようサポートする準備ができています」
――23年W杯での日本代表の戦いについてどう感じましたか?
「W杯ではあくまで一人のファンとして見ましたが、今回は日本代表HCとして関心を持ちながら改めて試合を見直しました。特にイングランド戦での最初の15分の戦いはとても良かったですね。あのレベルを継続し、さらにもう少しいいプレーができたらよかったと思います。(今後は)あの時よりもハイレベルなプレーを安定的にしていく必要があります。そうすれば我々が夢見る世界のトップ4に向けて前進することができるでしょう」
――2月からはいよいよシックス・ネーションズが始まりますが、23年W杯における欧州6カ国の戦いぶりについてうかがいます。まずはW杯4強入りを果たし3位で大会を終えたイングランドはいかがでしたか?
「スティーブ・ボースウィックHCは私と長い時間コーチを務めた仲間(日本代表とイングランド代表でHCとアシスタントコーチの関係)でしたから、W杯でいい結果が出せたことを心からうれしく思っています。イングランドは伝統的なスタイルに戻しましたね。強いキッキングゲーム、強固なディフェンス、精度の高いゴールキックを含め、とてもタフでいいパフォーマンでした」
――イングランドを率いていた当時エディーHCが代表に起用したSOマーカス・スミス、FBフレディー・スチュワードの活躍はいかがでしたか?
「とても誇らしいです。2人ともよくやったと思います。そして引き続き選手として成長しています。こうして若手を選抜して彼らがキャリアを重ねていくのは素晴らしいことです」
――次に、優勝候補の一角として期待されていたアイルランドについてうかがいます。
「W杯の前の4年間は世界ランキング上位を維持していましたし、W杯でも優勝候補でした。アイルランドは過去のW杯で厳しい結果を残してきました。そして今回も準々決勝から勝ち上がることができませんでした(決勝トーナメント7回進出もすべて準々決勝敗退)。彼らはストラクチャーに基づく統率された試合をし、選手たちも(何をすべきかという)理解が行き渡っていました。でも十分な内容ではなく、準決勝に届くようないいプレーができていなかったと感じました」
――フランスも優勝を目指していましたが、同じく準々決勝敗退となりました。
「開催国としてかなりのプレッシャーがあったでしょうし、まだ若いチームでした。そして最終的にはタイトヘッドプロップ(右プロップ)の層が厚くなかったことが大きく影響したと思います。世界最強クラスの国々を見ると選手層が薄いポジションはありません。つまり、日本も今後4年間は選手層の厚さを増すことが非常に大事である、ということです。そのためには若手を育て上げ、トップレベルで試合をするチャンスを与える必要があります」
――W杯でエディーHC率いるオーストラリアと対戦したウェールズはいかがでしたか?
「23年W杯の約1年前にウォーレン・ガットランド氏がHCとして戻ってきました。若い選手を試したり、経験のある選手を戻したりして、W杯に出てきたのは経験豊富でタフなチームでした。イングランドと同じく賢明で、卓越したキッキングゲーム、強いディフェンスをW杯本番で発揮し、素晴らしいファイトをしたと思います」
――スコットランドはどうでしたか?
「いいラグビーをしていました。彼らの試合を見るのを誰もが楽しんでいたと思います。SOフィン・ラッセルは世界で最もクリエイティブな10番で、よくボールを回す傾向にあります。W杯で優勝するには厳しいタイプのラグビーでしたが、彼らは立派に自分たちのラグビーをしました。準々決勝には進めずがっかりしたと思いますが、見ていて楽しかったですし、これからもあのようなプレーし続けると確信しています」
――イタリアについてはどう感じたでしょうか?
「彼らにとってはタフなW杯でしたね。オーストラリアと同様でした。若いスコッドを編成し、W杯までの4年間はいいラグビーをしてきました。ただ、非常に難しいスタイルのラグビーをしようとしていました。ディフェンスにも焦りが見られ、彼らのゲームプランの実行を難しくしていたように見えます。彼らもW杯の結果を残念に思ったでしょう」
――続いて、2月開幕のシックスネーションズについて、各国の展望や注目選手をうかがいます。まずは23年W杯で唯一結果を残したと言えるイングランドですが、引き続き好成績が期待できそうでしょうか?
「それだけの安定感があるかどうか、今は確信が持てません。キャプテンだったSO/CTBオーウェン・ファレル、FLコートニー・ロウズがプレーしないからです。彼らは極めて影響力のある強力なリーダーでした。同時に、誰をSOとして選ぶかという問題もあります。マーカス・スミスを据えてよりアタック指向のチームにするのか、あるいはジョージ・フォードにSOを戻してこれまでのようにキッキングゲームを展開するのか。HCのスティーブはその決断をし、チーム内を変えていく必要があります。イングランドが短期間でチームをどう立て直すか、それがシックスネーションズの結果に影響を及ぼすでしょう」
――アイルランドはキャプテンを務めていたSOジョナサン・セクストンという偉大な司令塔が引退しました。
「セクストンは(NFLの名クォーターバック)トム・ブレイディのような存在でした。チームの礎であり、影響力を持ち、絶対的なデシジョンメーカー(意思決定者)で、チームはセクストンを中心として構築されていました。セクストン不在の今、彼らがどう適応するのか。それがアンディ・ファレルHCにとっての大きな課題です。ただ、スコッドの大半がレンスター(ユナイテッド・ラグビー・チャンピオンシップ)でプレーしており日々一緒にトレーニングを重ねているという利点があります。今後重要になるキーマンはCTBギャリー・リングローズ、FLジョシュ・バンダーフリアーですね。2人ともまだ若く、強くて影響力のある選手です。彼らが活躍しセクストンの穴を埋めるだけのリーダーシップを取れるかどうかが、今後のアイルランドの鍵となるでしょう」
――フランスについてはどう見ていますか?
「フランスは選手層が非常に厚いですね。トップ14(フランス国内リーグ)は世界で最も強力なリーグであり、代表の選手層に厚さをもたらしています。ただ、特別な選手であるSHアントワーヌ・デュポンがシックスネーションズでプレーするかどうか、それがチームに大きく影響するでしょう。フランスは歴史的に見てもハーフバックスとフッカーがリードしているチームです。フッカーのジュリアン・マルシャンは23年W杯で早々と負傷離脱しましたが、彼が代表に復帰すればチームに大きな影響を与えるでしょう。ボールに食らいつき、スクラムでも強烈な力を発揮する本物の戦士です。いわば南アフリカのフッカー、マルコム・マークスのようなタイプの選手ですね」
――ウェールズはいかがでしょうか?
「ガットランドHCはシックスネーションズの中で最も経験が豊富なコーチです。彼が以前から長年続けてきたやり方を大きく変えるとは思えません。経験豊富なFWと、高度なキッキングゲームができる9番(SH)と10番(SO)を揃え、アウトサイドバックスにも大きな選手を並べます。彼らがシックスネーションズで最も安定したチームと言えるかもしれません。そして鍵を握るのはNo・8のアーロン・ウェインライトですね。No・8としては足が速く、大柄で、ゲームの読みが優れた、23年W杯でもウェールズにとって極めて重要な選手になりました。これからのウェールズをリードしていく選手になるでしょう」
――スコットランドは前回3位でした。躍進はなるでしょうか? 「彼らは常に危険な存在です。SOフィン・ラッセルはこれまでもいいプレーをしてきましたし、今まさに絶頂期を迎えていると思います。きっとシックス・ネーションズで優勝してキャリアを終えたいと思っているでしょうから、もしかしたら今回は彼にとっていいチャンスになるかもしれません」
――イタリアは引き続き最下位脱出を目指します。
「アルゼンチンの元司令塔で、トップ14のスタッド・フランセで長くコーチを務めたゴンサロ・ケサダが新指揮官になりました。彼はイタリアのチームに対し、より実用的なキッキングゲームをさせるでしょう。スコッドの多くがベネトン(ユナイテッド・ラグビー・チャンピオンシップ)に所属していることも利点と言えます。今のベネトンはとてもいい結果を出していて自信にあふれていますので、イタリアはシックスネーションズでサプライズを起こすかもしれません。キャプテンを務めてきたフランカーのミケーレ・ラマロはまだ若く、素晴らしい選手だと思います」
――こうした6カ国がしのぎを削る今回のシックスネーションズはどんな大会になると考えていますか?
「W杯後のシックスネーションズは毎回、何かしらの違いが生じる大会になります。なぜなら各チームがそれぞれ別々の発展段階にあるからです。W杯直後から再構築のプログラムに入っていくチームはシックスネーションズを若手中心のチームで臨むことになります。もちろん既存のスコッドのまま継続することを選ぶチームもありますので、その場合レベル自体はさほど下がりません。いずれにしても何か変化が起こるでしょうね」
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