W杯まであと1年!秋の真剣勝負を元日本代表SH田中史朗が解説 ラグビーANS WOWOW全試合放送
ラグビーの秋のテストマッチシリーズ「オータムネーションズシリーズ」は、あす29日のスコットランド―オーストラリア戦(英エディンバラ)を皮切りに、5週間計21試合の熱い戦いの火ぶたが切られる。WOWOWでは全試合を放送・ライブ配信予定。このほど、11月12日のイングランド―日本戦(英トゥイッケナム)、11月20日のフランス―日本戦(仏トゥールーズ)などでゲスト解説を務める元日本代表でW杯に3度出場したSH田中史朗(37=東葛)がWOWOWのインタビューに応じ、シリーズの見どころや日本代表への期待などを語った。
――オータムネーションズシリーズで日本代表はイングランド、フランスと対戦しますが、最近の日本代表の試合をご覧になって感じることがあればお願いします。
「チームとしては本当にレベルが高くなっています。僕がプレーしていた時よりも断然レベルが高く、世界のトップチームとも渡り合えていると感じています。ただ、トライを取ったらすぐに取り返されたり、最後の最後でトライを取られるという昔からよくあるパターンは勝負どころの試合での影響が大きいので、改善が必要です。ペナルティも目立ちますがそこは1人1人の意識の問題で、話し合えば収まるでしょう。スモールトークやミーティングを繰り返しながら修正してほしいですし、同時に1人1人が代表のジャージーを着ることの意味を理解しながらプレーしてもらいたいです」
――課題もある一方で、今の日本代表の強みはどのあたりにあると思われますか?
「運動量ですね。世界的に見ても激しいトレーニングをしていますし、80分間しっかり走り切れるのはすごくいいところです。また、前回の19年W杯と違って誰が試合に出ても遜色がなく、いいプレーヤーが集まっています。試合中のメンバー交代もそうですし、試合によってメンバーが変わっても戦力として大きく変わることがありません。そういう意味ではいい状態だと思っています」
――今シリーズと23年W杯で日本代表と対戦するイングランドの印象をお願いします。
「7月のオーストラリアA代表との3連戦の前はすごくミスが多く、日本としてはチャンスがあると思っていたのですが、しっかりと立て直してきました。エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチが幅広くラグビーを見て、いろいろな人とコミュニケーションを取ってチームを再建したのだと思います。戦い方も少し変えてきているように感じますので、分析が必要です」
――世界ランキング2位のフランスはどんなチームだと思いますか?
「最近、ようやく持ち前の“シャンパンラグビー”が戻ってきたように思います。その中でも、やはりスクラムハーフのアントワーヌ・デュポン選手の存在が際立っていますね。前に出る力、トライを取り切る決定力、そしてディフェンス能力も兼ね備えています」
――イングランド、フランスと対戦する今回のマッチメイクをどのように思いますか?
「23年W杯の1年前にこのような試合ができるのは素晴らしいことですし、日本代表は今回の試合を通して自信をつけてもらいたいですね。敵地で試合できることもいい経験になります。ホームとアウェイでは雰囲気が全然違いますし、フランスで行われる来年のW杯に向けて敵地で経験を積むことはプラスになると思っています」
――日本代表は19年W杯の1年前、18年にイングランドと敵地で対戦しました。今回はW杯本番で当る前哨戦ということになります。
「18年はイングランドといい試合ができたので(イングランド35―15日本)自信につながりました。だからこそ今回の欧州遠征でもしっかりといいパフォーマンスを出し、できれば勝って自信につなげることが大事です」
――フランスとは、23年W杯で日本代表が拠点とし、2試合を行うトゥールーズで対戦します。
「僕も15年W杯の前に開催地のイングランドへ下見に行きましたが、現地の雰囲気、環境を味わうことで本番で何が必要になるのか事前に理解できますので、1年前に現地に行けることはすごくいいことだと思います」
――日本代表としては確実に強化につながる2試合となりそうです。
「近年はW杯の1年前にある程度いい結果を残してW杯本番に臨むことができています。そういう意味でも今回の2試合で勝利、もしくは善戦できないと1年後にかなりのプレッシャーがのしかかってきます。ですから、ぜひ今回はいい結果を残してもらいたいです」
――今の日本代表に対する期待、メッセージをお願いします。
「力としては今や世界トップのレベルにあると思います。あとはチームとしてのまとまりが大事です。世界の強豪に勝つための自信を常に持ちながら、実際に勝つことでさらに自信を深めてW杯に臨んでほしいですね」
――オータムネーションズシリーズでは日本代表の2試合をはじめとする注目カードを解説していただくことになりました。オープニングマッチとなる10月30日のスコットランド―オーストラリア戦を解説されますが、この試合の見どころをお願いします。
「スコットランドはプレースタイルが変わってきていますし、オーストラリアはまたスタイルが違うチームですので、プレースタイルが異なるチーム同士の戦い方をぜひご覧いただきたいです。注目は南アフリカ出身で欧州にない強さを持ち、フィジカルの強さで代表の座を勝ち取ったスコットランドのウイング、ドゥアン・ファンデルメルヴァ選手です。オーストラリアは代表に復帰したマイケル・フーパー選手に注目しています。彼のリーダーシップ、パフォーマンスがもう一度見られそうで、楽しみです」
――11月6日のウェールズ―ニュージーランド戦も解説されます。
「まずはオールブラックスが欧州のチームに対してどういう戦い方ができるか、という点に注目しています。7月のアイルランドとの3連戦に負け越すなど最近は黒星が目立ちますので、この一戦でもう一度強いオールブラックスを見せてほしいです。ウェールズもしっかりチャレンジして欧州の底力を見せてほしいですね。オールブラックスでは、素晴らしいランニングスキルの持ち主でボールを持つとワクワクするウイングのウィル・ジョーダン選手、ウェールズでは相手を抜き去るスピード、トライの嗅覚が光るウイングのルイス・リースザミット選手に注目しています」
――他にも注目しているカード、チームがありましたらお願いします。
「個人的にはアイルランド―南アフリカ戦(11月6日)が特に楽しみです。テクニックのアイルランドか、パワーの南アフリカか。注目しています」
――世界ランキング1位のアイルランドの強みはどのあたりでしょうか?
「今の世界のラグビー界で最もチームとしてまとまって戦っているところです。個人個人も素晴らしいですが、能力の高い個人がしっかりまとまり合って15人のチームとして戦えているところがアイルランドの強さだと思います」
――南アフリカは、やはり「パワー」のチームという印象ですか?
「そうですね。あのパワーは本当に素晴らしいです。それを止めないと自ずとピンチが訪れますので、どのチームも南アフリカのパワーに対して策を講じて止めないといけません」
――こうした強豪チームには必ずいいスクラムハーフがいますね。
「アイルランド代表のジェイミソン・ギブソンパーク選手はニュージーランド出身で、いいテンポを作り出すスクラムハーフです。バックスも前に出やすいのではないでしょうか。南アフリカには日本でプレーするファフ・デクラーク選手がいますが、彼を見ているとプレーしていてすごく楽しいんだろうと思います。フォワードが前に出てくれるとスクラムハーフとしてはすごくやりやすいはずです。もちろん個人の能力もすごく高い選手ですね」
――今夏は苦しい状況にあったニュージーランドですが、今年のザ・ラグビーチャンピオンシップでは優勝するなど本来のチーム状態に戻ってきました。
「いろいろな方と話をしていても、やはりニュージーランドが負けるなんて信じられない、悔しいと言う人が多いですね。僕自身もニュージーランドにずっと関わってきましたので、常に強いオールブラックスであってほしいと思います」
――田中選手とハイランダーズでポジションを争ったアーロン・スミス選手は、今なお代表の9番を張り続けています。
「心から尊敬しています。33歳であのパフォーマンスですから、本当にすごいの一言です。試合中はしっかり声を出しながら前半はしっかりパスを回して組み立てて、後半はスペースを突いていく、そんなプレースタイルも今なお健在です」
――その他のチームで注目している世界的選手がいましたらお願いします。
「日本代表からのピックアップになりますが、リーチ・マイケル選手です。昔からすごい選手でしたが、直近のパフォーマンスは本当に素晴らしいですし、さらに円熟味を増しています。世界を見渡しても最高クラスのパフォーマンスをしているのではないでしょうか。ラグビーを楽しんでプレーしていると同時に、やはり代表を背負っているという責任が感じられます」
――長年一緒にプレーしてきた仲間の一人ですね。
「はい。ずっと一緒にやってきた彼の活躍はすごくうれしいです。たまに『しんどい』とお互い言い合ってきた仲ですが、あれだけのパフォーマンスができるなら大丈夫だよ、と言ってあげたいですね」
――加えて注目したいチームとしては、23年W杯で日本代表が対戦するアルゼンチンとサモアです。まず、現在のアルゼンチンから印象をうかがいます。
「素晴らしいチームですね。昔と比べて断然レベルアップしました。今やニュージーランドやオーストラリアに勝つこともありますし、23年W杯は日本代表も警戒しなければなりません。やはりザ・ラグビーチャンピオンシップに出場していることがそのレベルアップにつながっていますので、日本代表もインターナショナルレベルの戦いを増やす必要があります」
――NECグリーンロケッツ東葛のディレクター・オブ・ラグビーも務めるマイケル・チェイカさんがアルゼンチンを一段と強くしていますね。
「はい。もちろんアタックが素晴らしいのですが、それ以上に感じるのはディフェンスのレベルの高さです。日本代表が戦う上ではあの分厚い壁をいかに打ち破れるか、そしていかにスペースを突いていけるかという点が重要になってくると思います」
――サモアはW杯3大会連続の対戦となりますが、これまでのサモアの印象をお願いします。
「やはりパワーが最大の特徴です。パワーで壁をぶち破ってボールを回してトライを取ってくる、そんなチームですね。ただ、今の日本代表は縦に突いてくるアタックに対してはディフェンスで対応できていますので、しっかり止めれば問題ない相手だと思っています」
――注目国、注目カードが目白押しですが、今回解説をする上で視聴者のみなさんにどのようなことを伝えていきたいか、最後にお聞かせください。
「まずは各チームのカラーを伝えていきたいですね。また、ラグビーはどこにスペースがあるのかを見極めるのが大事です。テレビでは外側や裏側などどこにスペースがあるのかが見やすいですし、特に大事になる9番(スクラムハーフ)と10番(スタンドオフ)のゲームコントロールも含めて視聴者の方々にわかるように伝えたいです。試合が終わった後、敵味方関係なく笑顔で会話を交わすといったラグビーの素晴らしいところもぜひ見てもらいたいですね」
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