女子相撲の発展を目指し「魅力をもっと知ってほしい」階級別、多彩な技…女子高生と監督の熱い思い

[ 2022年8月10日 11:15 ]

8月3日、合同稽古に参加した選手ら。後列右端は京都両洋高の高橋優毅監督。同左端は大田嵐相撲道場コーチの檪原利明氏(撮影・前川 晋作)
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 女子相撲の合同稽古が3日、東京都大田区の平和の森公園内にある大田嵐相撲道場で行われた。京都両洋高校から遠征に訪れた7人に加え、7月のワールドゲームズ(米バーミングハム)で中量級(80キロ未満)世界一に輝いた石井さくら(足立新田高2年)ら東京近郊の女子選手も参加。小学生から大学生までの計18人が、猛暑に負けない熱のこもった激しい稽古を繰り広げた。

 「ゴツン!」と鈍い音が相撲場に響き渡る。立ち合い頭と頭で当たり合う激しさは男子選手と何ら変わりはない。軽量級選手たちの速い動き、多彩な技の応酬、中量級選手の力強い攻めなど、1時間以上続いた申し合い稽古は見応え十分だった。「初めて練習を見た人には“こんなに頭でガンガン当たるの?”って驚かれます」と話すのは京都両洋高の高橋優毅監督(35)。同校は共学だが男子の相撲部はなく「女子相撲部」として活動している。京都は強豪・立命館大などもあり女子相撲が盛んな地域で、10月2日には第27回全日本女子相撲選手権大会の開催が宇治市で予定されている。「もっと魅力を知ってほしい。1回見てほしい。女子相撲をもっと発信していきたい」。そう願うように、競技としての認知度や人気の向上がアマチュア相撲界全体の課題となっている。

 男子は体重別の大会もあるが全国学生選手権や全日本選手権など無差別級で行われる試合の方が主流。それに対し、女子は原則全ての大会で体重別が採用されている。いわば柔道やレスリングのように「体重別で競う対人競技」の一種でもある。高橋監督は「階級別なので太らなくてもいい。そこをもっと周知させたい。“女子の相撲とはこういう競技だよ”って」と、女子ならではの競技性や魅力をアピール。京都両洋高女子相撲部主将で昨年の全日本女子相撲選手権大会超軽量級(50キロ未満)3位の実績を持つ賀數心(かかず・こころ=3年)は「同じ体型の子としか戦わないので“やってみ”って言いたい」と、相撲経験のない人たちにも興味を持ってもらえるよう呼びかけた。一方で「小さい人が大きい相手を倒すと歓声が湧くからうれしい」と相撲そのものの魅力も実感しており、階級別と無差別それぞれの良さを熱弁。「相撲が好き」という気持ちがよく伝わってきた。

 相撲と同じく女子の認知度がまだ発展途上にある高校野球では、近年女子選手にも少しずつ活躍の場が広がっている。全国高校女子硬式野球選手権の決勝は昨年から聖地・甲子園球場で行われるようになり、男子の全国高校野球選手権大会では今年から試合前の練習補助などの活動が女子部員にも認められるようになった。このような時代に応じた「変化」は相撲界にも起こり得るだろう。相撲は男だけの競技だと誤解している人が存在するのも事実。大田嵐相撲道場コーチで日本相撲連盟常務理事、日本相撲協会顧問も務める櫟原利明氏は「プロの大相撲のイメージから“相撲は体の大きな男性がやる競技”と思われがちだが、そうではない。体が小さくても、女性でも、老若男女が取り組めるもの」と多様性を力説した。

 女子の普及は将来的に五輪競技採用にもつながる。その第一歩として国際相撲連盟は18年にIOC(国際オリンピック委員会)に正式承認された。相撲の五輪競技化という大きな夢も広がるが、高橋監督は「そんなに大それたことは…」と苦笑い。「僕は目の前にいる子たちが精いっぱい相撲できる環境をつくってあげるだけです。相撲を頑張る子が一人でも多く増えてくれたらなと思っています。女子相撲の魅力をもっといろんな人に知ってもらうことが僕の中での目標です」。純粋に相撲を愛して青春をささげる女子高生たちのために日々情熱を注ぐ。その熱い思いが、女子相撲を、相撲界の未来を切り開いていく。(記者コラム・前川 晋作)

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