新型コロナ対策支援で広がる命名権売却 東京五輪会場も例外で…

[ 2020年5月10日 10:30 ]

バルセロナの本拠地カンプノウ(AP)
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 メッシが所属するサッカーのバルセロナがホームスタジアムであるカンプノウの命名権を売却する、という報道を知って「ユニホームに続いて…」と少し失望した。

 06年に初めてユニホームの胸部分にユニセフ(国連児童基金)のロゴを入れた際は広告というよりも福祉活動への協賛ということだったが、結局11年のカタール財団を皮切りに通常のスポンサー獲得による巨額資金捻出の手段になった。もちろん資金力がものを言う現代プロスポーツの世界で非難される筋合いのことではないのだが「クラブ以上の存在」として100年以上も胸にスポンサー名を入れてこなかったクラブの方針転換を少しばかり残念に思ったのは事実である。

 今回のカンプノウ命名権売却も同じ流れで捉えてしまったのだが、よく聞けば期間は来季1年限定で契約金は新型コロナウイルス治療研究などを支援するために使われるという。名称もスポンサー名を入れるものの「カンプノウ」は維持。それならば「悪くはない話か」と感じた。

 そんなことを思っていると、米紙USAトゥデーのコラムニストであるナンシー・アーマー氏も記していた。MLBレッドソックスの本拠であるフェンウェイ・パークやNBAニックス、NHLレンジャースの本拠で格闘技やエンターテインメントの聖地でもあるマジソンスクエアガーデンの命名権売却を想像し「通常なら冒とくと見なされる。最悪」と指摘した一方で、新型コロナに世界が苦しむ現状を鑑みて「公共サービスにかない、ぐらつく世界を救うために簡単な方法」とバルセロナの決断を称賛。カンプノウほどの象徴的なスタジアムで初めての命名権を取得できるとあれば、たとえ短期間であっても「何千万ドル(何十億円)ももたらすことになるだろう」と予想した。

 確かに同感。…とはいうものの、自分の立場に置き換えるとどうか。大阪生まれの大阪育ちで子供の頃は春休みと夏休みに高校野球観戦に通い、阪神タイガースを応援してきた人間にとって「さすがに甲子園に命名権は抵抗が…」なんて思っていると、よく考えたら正式名称は「阪神甲子園球場」だ。「“阪神”の部分が他の企業名に差し替えられるだけ」と考えれば抵抗感はなくなった。

 ついでに思いついたのだが、東京五輪の会場も命名権を売却してはどうか。五輪で使用される会場はサッカーやラグビーのW杯などと同様、命名権によって名付けられた愛称ではなく、正式名称が使用される。例えばFC東京のホームである「味の素スタジアム」は東京五輪の会場として報じられる場合は「東京スタジアム」となる。大会スポンサーを保護するためと言われているが、今回の東京五輪に限って特例で命名権の売却を認め、巨額の契約金は3000億円規模と言われる追加費用の穴埋めに充てる。新型コロナの対策に充ててもいいが、いずれにしても日本政府や東京都の負担軽減につながればいい。コロナ禍にあえぐ経済状況下で6000億円に膨れあがる可能性まで指摘されている追加費用の大半を効果的な対策もないままに日本側が負わされるというのは、いかがなものかと思う。

 もともと東京五輪会場の一部は大会後に維持費の赤字を抑えるために命名権を売却することが決まっている。近代五輪で史上初めて五輪憲章でも規定されていない延期が決まった「TOKYO 2020」だ。もう一つぐらい例外を作ってもバチは当たらないと思うのだが…。(記者コラム・東 信人)

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2020年5月10日のニュース