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新体操ブルガリア代表のホストタウン 山形県村山市 五輪延期でさらに高まったおもてなしの情熱

[ 2020年3月30日 09:17 ]

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う東京五輪・パラリンピックの延期を受け、各国の選手団をおもてなしする全国のホストタウンも対応を迫られている。新体操ブルガリア代表を受け入れる山形県村山市は、市民と一体で盛り上げてきただけに落胆の色は濃い。それでも「今年以上に万全の態勢で選手を迎えたい」と2021年に向けて気持ちを切り替えている。 (安田 健二)

 五輪延期という前代未聞の決定から一夜明けた25日。村山市東京五輪・パラリンピック交流課の矢口勝彦課長(60)は「4年計画で金メダルを目指してきたので、そのリズムが崩れるのは嫌な感じがした」と吐露した。

 本来なら7月15日からブルガリア新体操代表が市で事前キャンプを行い、本番に臨む予定だったが、それが全て白紙となった。市側も航空券や宿泊施設など全てキャンセルするなど大わらわ。疲れの色は隠せない。それでも矢口氏は「中止ではなく延期になったのは結果的によかった」と切り替えた。

 村山市は日本で最も早く事前キャンプ交渉に乗り出した自治体だ。ブルガリアにアプローチしたのは、バラの産地など共通点が多かったから。16年リオ五輪が終わると、矢口氏が新体操連盟に直談判。ナショナルチーム「ゴールデンガールズ」の誘致に成功した。新体操を国技とするブルガリアだが、五輪では銀メダルが最高。そこで立てたのが4年をかけた金メダルプランだった。

 市は17年から年1回の「ローズキャンプ」と名付けた事前キャンプを実施。3回目となった昨年は有料の公開演技会に約2000人の市民が集結し会場に大歓声がこだました。五輪チケットも職員、市民合わせて約800人で申し込み、新体操のチケット46枚に当選した。行政と市民が一丸となった情熱は選手にも伝わり、今では村山を訪れると「故郷に戻ってきたわ」と愛着を抱くほどになった。

 その取り組みは全国にも知れ渡り、昨年開かれたホストタウンの祭典「ホストタウンサミット2019」の優良情報発信賞など全3部門を獲得。満を持して集大成となる4回目の「ローズキャンプ」に備えていた。

 計画の見直しを余儀なくされた矢口氏が案じるのは、新たな開催時期。これが決まらなければ身動きが取れない。「21年の7月に開幕してもらえれば段取りとしてはスムーズなのだが…」と悩みは多い。

 気になるのは選手たちの様子。連盟側からは「まずはコロナウイルスに打ち勝つこと。自宅待機で団体練習はできない状況が続いているが、選手たちは大丈夫」とのメッセージが届いたという。矢口氏は相手に送る手紙へこう書いた。「延期になっても私たちは全力で支えていきますから。準備は怠りなくやっていきます」。今年以上に万全の態勢で選手を迎えるつもりだ。

 《市民応援団も前向き!!「絶対金を獲らせたい」》「応援する意欲が一層高まった」。延期をポジティブに受け止めたのは市民応援団「ゴールデンガールズファンクラブ」の小室けい子代表(69)だ。

 4月9日からブルガリアの首都ソフィアで行われる新体操のワールドカップを応援する予定だったが、新型コロナの影響で取りやめ。五輪のためにブルガリア国旗をあしらったポンチョを手作りし、「ハイデ!ナシュテ(頑張れ!我らの少女たち)」とブルガリア語を取り入れた応援も披露が先送りになった。

 それでも小室さんは「どっかどした(村山の方言でホッとしたという意味)」と言う。「選手が十分に練習できなければ、力を出せないじゃない。いい環境で最高のコンディションで試合に臨んでもらうのが一番だもの」と孫のような年頃の選手を思いやり「1年延期するので、絶対に金メダルを獲らせてあげたい。それが私たちにとっても“金メダル”なんです。ともに戦っていきたい」と力を込めた。

 村山とブルガリアをつないだバラ。その花言葉には「愛」「情熱」がある。選手たちはSNSなどを通じたメッセージの最後に決まって「愛しているよ」との言葉を添えてくれるという。小室さんらは選手たちが次に来日した時にとびきりの笑顔で「待ってたよ」と迎えるつもりだ。金メダルへ心は一つ。その情熱と真心は苦難に直面しても揺らぐことはない。

 《小中学校にR―1ヨーグルト1日1800個配布、体調管理も“ブルガリア”流》村山市は、ヨーグルトの本場ブルガリアにあやかって「うがい、手洗い、ヨーグルトで健康づくり宣言」を昨年11月に発表。これに先立ち、乳業大手の明治と連携して同年10月から今年2月末まで市内の小中学校に「R―1ヨーグルト」を1日約1800個配布した。ヨーグルトには風邪やインフルエンザの予防に効果があるとの研究結果もあり、市保健課は「免疫力アップにつながっていけば」と期待を寄せている。

 山形県は新型コロナの感染者がいまだに出ていない。09年に大流行した新型インフルエンザでも発症者の確認が全国で最も遅い47番目だったことから、吉村美栄子知事は24日の定例会見で当時の発言を振り返り「県民が規則正しい生活をしたり、おいしい物をたくさん食べて栄養を取って生活をしているので免疫力が高いのではないか、と発言したのを思い出した」と話した。

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2020年3月30日のニュース