【ダービー】塩崎利雄氏 コロナ下だからこそ競馬に浪漫を、若者に夢を

[ 2021年5月28日 05:30 ]

皐月賞を制したエフフォーリア
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 希代の馬券師が帰ってきた。昨年のジャパンC、3冠馬3頭の3連複1点を100万円仕留め、「7億円賭けた男」の面目を施した競馬評論家・塩崎利雄氏(76)。29日喜寿を迎えるミスター鉄火場が第88回ダービーに出した結論は?昭和の男の戦いを目に焼き付けろ。

 初めてダービーを観(み)たのが昭和42年、アサデンコウが勝った時だ。

 「まだ産まれちゃいないョ…」
 とお叱りを受けるやもしれぬが、お許しをで…。

 スタートの10分前ぐらいだろうか。

 一天俄(にわか)にかき曇り土砂降りの雨。雷鳴轟(とどろ)き、稲光が走る中、増沢末夫の乗るアサデンコウが直線で抜け出した。

 いなづま――電光。語呂合わせのような結末で、スポーツ紙の見出しが躍った。

 スタンド改築中で、調教師の隣に仮設した記者席で、吹き込む雨にズブ濡れになりながらの観戦だった。

 あれから五十数年。欠かすことなくライヴで観てきたが、コロナ禍で無観客となった昨年、JRAからの要請で、泣く泣く遠慮して自宅でのテレビ観戦となった。

 年は取りたくないもんで、昔のことは鮮明によく覚えているのだが、四、五年前のことになると、うろ覚えで、酒席で同世代の友人から

 「5年前のダービー、何が勝ったっけ…」

 唐突に訊(き)かれ、狼狽(うろた)えることがしばしば。

 スマホを自在に操る若者が同席していれば、10秒もたたずに
 「マカヒキです…ちなみに2着はサトノダイヤモンド…」
 となるのだが、爺(じじ)ィ同士だと
 「なんだっけ、ウーム…」

 競馬で飯を食っているのにお互い思案顔で、お猪口(ちょこ)を口に運ぶことになる。

 己の愚かさ、馬鹿さ加減を曝(さら)け出すようで頭ポリポリだが、多分、日本で一番馬券を買った競馬記者は自分だろうと自負している。

 拙著「実録 極道記者」のサブタイトルが
 「競馬無頼 7億賭けていまだ懲りず」
 で
 「ホラを吹くのもたいがいにしろ」
 とか
 「そんなの信じられない。嘘(うそ)だろう」
 と、まぁ、8割方の人が首を振るに違いない。

 でも、本当なんだからしょうがない。

 お金をオモチャ代わりにして賭け、粗末に扱った罰が当たって、こちとらに入ってくるお金はいずれもそそっかしくて慌てモン。

 右から左。一泊二日で旅に出ることが多く、
 「俺たちに明日はない。キャッシュカードに残はない」
 てなことになる。

 けれども、だ。無理はもうしないが、そこそこ張る金はあるのが不思議で、恥多き人生だが丈夫に産んでくれた父、母に感謝している。

 酒を飲む機会が激減。飲むところもなく、つまらない世の中になっちまった。

 憎っくきコロナウイルスだが、ちょっとだけいいこともある。

 短期免許を取得して日本へ出稼ぎに来る外国人ジョッキーが来られなくなったことだ。

 確かにモレイラだムーア、そしてレーンと世界で活躍する腕達者のジョッキーは刺激にはなるが、その煽(あお)りを食うのが若手のジョッキー。

 ただでさえ、ルメールとデムーロの二人に席巻されているのに、入れ代わり立ち代わりにやって来て、常時5人以上の外国人ジョッキーが年間を通して騎乗していれば、なかなかチャンスは回ってこない。

 いい馬と巡り合っても、勝ち続けていればともかく、一度でもヘグれば、たちどころに乗り替えられる。

 失敗を糧に成長していく若手の芽を摘むことになるのだ。

 コロナ禍でスポット参戦の外国人ジョッキーが来なくなった昨年から今年にかけて、デビュー5年未満の若手の台頭めざましく、リーディングの20位以内に、19歳の泉谷楓真(16位)、20歳の菅原明良(14位)、同じく20歳の岩田望来(12位)、21歳の西村淳也(9位)、そして22歳の横山武史(7位)と5人も名を連ねているのは特筆される。

 その若手ジョッキーの中にあって白眉と目されているのが、エフフォーリアで「皐月賞」を制した横山武史だろう。

 センスがいいし、精神面でもきわめてタフ。ビッグな舞台でも平常心で乗れるのは素晴らしい。

 一昨年、父親の横山典弘からの乗り替わりで「ダービー」を経験しているのも大きなプラス材料だ。

 「皐月賞」での3馬身差完勝は、あのナリタブライアンの3馬身半差に次ぐ記録で、おそらく負けないだろう。

 確かに変幻自在のルメールが乗る牝馬のサトノレイナスは怖い。

 距離不安を露呈して「オークス」で8着と敗れた白毛のソダシに二度負けているとはいえ、それで評価は下がるものではない。

 だが、2007年の「ダービー」を勝ったウオッカの再来とまで評価するのは、いかがなものかと思っている。

 健闘しての2着までと考えている。

 まず、馬単でエフフォーリアからサトノレイナスに10万買ってから、エフフォーリア1着固定の3連単。相手にサトノレイナス、福永祐一のシャフリヤール、吉田隼人のステラヴェローチェ、戸崎圭太のグレートマジシャン、田辺裕信のタイトルホルダーの5頭。

 この20点に2万ずつの50万勝負だ。

 昔、なにかと可愛がってくれた熱海の大親分が、1千万ぐらい溶かしての帰り際、「二階から目薬を注(さ)すようなもんで、馬券は当たらんもんだ…」
 と笑いながら車中の人になって
 (…さすがだナァ…)
 と感心したものだが、こっちは貧乏人だ。

 泣かないで済むよう、横山武史に頑張ってもらおう。(競馬評論家)

 ◆塩崎 利雄(しおざき・としお)1944年(昭19)5月29日生まれ、東京都出身の76歳。東京スポーツを皮切りに競馬専門紙を含めて56年の予想歴を誇るベテラン競馬評論家。東京競馬記者クラブ会友。スポニチには01~02年に予想コラム「鉄火場慕情」を執筆。主な著書は極道記者シリーズ、止まり木ブルースシリーズなど。

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