「高座に上がって一席演じるのが幸せでしようがない」 立川幸路の笑顔
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【笠原然朗の舌先三寸】落語の寄席には、入れ替わり立ち替わり芸人が上がる。上がった数だけいろいろな顔に出会う。客に笑いを提供するのだから演者は「笑顔で演じる」が基本。だがこの笑顔もいろいろ。作り笑い、緊張で引きつった顔、シニカルな笑い顔。案外、「高座に上がって一席演じるのが幸せでしようがない」の気持ちを表している顔は少ない。立川幸路(ゆきじ)の笑顔がソレだった。
ひょこたりと高座まで歩いてきて座布団に座って丁寧におじぎをする。俳優の上白石萌歌似の美形が開口一番、「私、趣味が飲酒なんです」。これにはずっこけた。「お酒が好きです」ではなく「趣味が飲酒」。アウトローのにおいもするゾ。
1996年(平8)、東京・亀戸生まれの29歳。2021年、立川談幸に入門。昨年11月に二つ目に昇進した。
そういえば師匠・談幸も「寄席に上がりたい」などの理由で立川流を脱会。そのせいか寄席の高座ではいつも満面の笑みで一席。幸路の笑顔は師匠譲りか?
東西あわせて女性落語家は60人近くいる。圧倒的に男性優位の落語界で、幸路は二つ目として一本立ちをして4カ月ほど。古典と新作の二刀流で「演じる場所=働き場所」の開拓で悪戦苦闘中だ。話を聞いた。
「前座のときは自分の時間がなくて大変でした。二つ目になって、やっと終わったと思ったけど、これからは1人でご飯を食べていかないといけないので大変ですね」とのんびりとした口調で話す。「私、人からなまけものに似ているって言われるんですよ」
サラリーマンの家庭で育ち、落語とは無縁の少女時代。高校、大学とソフトボールに熱中。ポジションは捕手。お笑いコンビのオードリーや爆笑問題が好きで、いつかはバラエティー番組を作りたいとテレビ番組の制作会社に就職した。
アシスタントディレクター(AD)として2年間、業界あるあるの長時間労働。夜は会社の床で眠るような生活で身体もココロも疲れ切った。「面白そう」と仕事の合間に入った寄席で落語に出合った。何度か通ううちに「こういう笑いもあるんだ」と思った。
あるとき入った浅草演芸ホールの高座で一席演じていたのがのちに師匠になる談幸。ネタは「町内の若い衆」。少しエッチな要素が入った古典落語の名作で、談幸の軽妙洒脱な芸と相まって「心に刺さりました」。
「お笑いの裏方より私はあっち側(演じる側)に回りたい」と決心。勤めていた会社の社長に「落語家になります」と辞意を告げた。一途なのだ。それを聞いた社長は驚いた。「何それ?でも応援するよ」。
まず履歴書ありきの会社就職とは違う。落語家入門の王道は師匠への「直訴」。
新宿・末広亭の楽屋口で談幸を待ち伏せして「弟子にしてください」。答えは「これまで女性の弟子を取ったことがないし、育てられるかわからない。落語は歌舞伎と同じ男社会。だからもう少し考えて。私じゃなくて他の人のところへ行ってもいいし、もし縁を感じたらまた来て」。故立川談志唯一の内弟子として芸と人間を磨いた談幸ならではの誠実な対応だ。
「少なくとも拒否はされていない。ポジティブに捉えました」
2度目の直訴は池袋演芸場の楽屋口。「話は聞こう」ということになり、3度目は江戸川区内の談幸宅近くの喫茶店で。晴れて入門が許され6番弟子(現在、談幸の弟子は7人)となった。
直情怪行な娘に父親は「やりたいことをやった方がいいよ」と理解を示した一方、母親は「落語家になって給料は?税金は?年金はどうなるの?」とあくまでも現実的だ。
そんな母親を「何と丸め込んで」前座見習いは3カ月。談幸宅で噺の稽古とともに前座仕事として必要な着物のたたみ方、楽屋太鼓の叩き方を教わった。 初高座は台東区の日暮里サニーホールで行われた談幸独演会の開口一番。前座噺の代表作の1つ「道灌」を演じた。100人からの観客を前にして頭の中が真っ白になった。固まっていると、談幸が舞台そでから台詞を言ってくれた。大爆笑とともに客席からは「頑張れー」の声援が飛ぶ。散々のデビューだったが、幸路の名前をお客さんに知ってもらう、という意味では大成功だったのではないか?
得意な噺は「転失気」「動物園」「金明竹」「牛ほめ」など。新作では「真昼のシンデラレラ」。前夜、どれだけ深酒をしても昼には復活してシャキっとする日本酒大好きの飲んべえの女子、幸路自身をキャラクターにした噺だ。記事にするのははばかられるちょっとどころか、だいぶ汚いシーンもある。見た目は華、だが中身は与太郎。そんなギャップが面白い。
どんな落語家になりたいのか聞いてみた。
返ってきた答えは「笑いも、酒もど真ん中で行きます」。酒もね。立川幸路、あなたの歩む路はきっと幸せへと続く。
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