【岸本加世子 我が道14】ひばりさんに深夜のごあいさつ 電話の向こうから「知ってるわよ」

[ 2025年11月15日 07:00 ]

舞台「放浪記」でご一緒した(左から)奈良岡朋子さんと森光子さん
Photo By スポニチ

 「柔」「川の流れのように」「悲しい酒」「みだれ髪」と、挙げていくと切りがない。言わずと知れた“昭和歌謡界の女王”美空ひばりさんの代表曲ですね。

 ひばりさんに引き合わせてくれたのは奈良岡朋子さんでした。30年ほど前、TBS系列で放送されていた「すばらしき仲間」という本田技研(ホンダ)1社提供のトーク番組があって、奈良岡さん、太地喜和子さんと私がゲストで呼ばれたんです。

 劇団民芸の代表を務め、70年以上も舞台に立ち続けた奈良岡さんと「杉村春子の再来」とまで言われた喜和子さんとの対談。喜和子さんはとってもシャイな方。お酒が入らないとほとんどしゃべらないのです。

 神宮外苑の国立競技場そばのレストランで収録が行われ、一応ワインなんかのアルコール類も用意されていましたが、最初はいつもの楽しい喜和子さんじゃありません。ようやく“らしく”なってきたのは、もう収録が終わる頃でした。

 収録が終わると「これから3人で飲もうよ」という喜和子さんの提案で、近くの店を探しましたが、あいにく深夜でどこも開いてない。すると奈良岡さんが「じゃあ、うちにおいでよ」と誘ってくださいました。近所にお住まいだったのです。

 お言葉に甘えて奈良岡邸にお邪魔しました。夜中の1時くらいにはなっていたと思います。飲み直しが始まって、喜和子さんが目ざとく見つけたのがサイドボードの中にあった1本のボトル。「美空ひばり」と書かれた千社札が貼られていました。

 喜和子さんは「私、美空ひばり大好き!大好き!大好き!ちょっと声が聞きたいわ。電話してよ、奈良岡さ~ん」とねだるんです。奈良岡さんはその場で電話してくださいました。

 喜和子さんに続いて、受話器が回ってくる。私のことなんてご存じないとは思いつつ、「どうしよう。美空ひばりさんだ…」とド緊張。それでも勇気を振り絞って「初めまして。岸本加世子と申します。女優をやってます」とごあいさつ。

 するとひばりさんは電話の向こうから
 「知ってるわよ」
 と、あの独特な言い回しで答えてくださったのです。

 その頃、ひばりさんは新宿コマ劇場で「春秋千姫絵巻」という、歌とお芝居の公演中。これが最後のコマ公演となってしまうのですが、奈良岡さんが「見に行こう」と誘ってくださった。

 楽屋にお邪魔して、そこで初めてひばりさんにお会いしました。ひばりさんは、その時から胸襟を開き、戸惑うほど、優しく気さくに接してくださいました。

 ◇岸本 加世子(きしもと・かよこ)1960年(昭35)12月29日生まれ、静岡県島田市出身の64歳。77年、テレビドラマ「ムー」で女優デビュー。以降、テレビ、舞台、映画、CMなどで幅広く活躍。ドラマ「あ・うん」、舞台「雪まろげ」、北野武監督の映画「HANA―BI」「菊次郎の夏」など代表作多数。著書に小説「出てった女」、エッセー「一途」など。

続きを表示

この記事のフォト

「美脚」特集記事

「中居正広」特集記事

芸能の2025年11月15日のニュース