三宅唱監督の“新たな旅”に乾杯の気分!

[ 2025年9月11日 22:00 ]

「旅と日々」の場面写真。堤真一とシム・ウンギョン(左から)(C)2025「旅と日々」製作委員会
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 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】心が洗われた。待っていたのは確かにこんな映画だ。11月7日に封切られる三宅唱監督(41)の最新作「旅と日々」を試写会でお先に拝見。これほど気持ち良く余韻に浸りながら会場を後にしたのは久しぶりのことだった。

 漫画家つげ義春(87)の「海辺の叙景」と「ほんやら洞のべんさん」を「旅」のくくりで巧みに紡いでみせた三宅監督の力量には改めて脱帽する。「ゲンセンカン主人」や「ねじ式」「李さん一家」など、1964年創刊の漫画雑誌「ガロ」を通じて全共闘世代の大学生を中心に熱烈なファンをつかんだ、つげ作品。筆者は“ガロ世代”の少し後に生を受けているが、古書店で作品集や「ガロ」のバックナンバーを見つけては“つげワールド”に浸ってきた。

 「旅と日々」の2日前、京橋に引っ越した東映の新しい試写室で大友啓史監督(59)の「宝島」を見せてもらった。妻夫木聡(44)をはじめ、広瀬すず(27)、窪田正孝(37)、永山瑛太(42)ら出演者の迫真演技には舌を巻いた。

 真藤順丈氏(47)の直木賞受賞作が原作。アメリカ統治下の沖縄を懸命に生き抜いた若者たちの姿を壮大なスケールで描いた3時間11分の大作。正直言えば、「途中でトイレに行きたくなったらどうしよう?」とおっかなびっくりの観賞だったが、そんな心配も杞憂(きゆう)に終わった。それほど作品にのめり込んでいだ証だろう。

 興収130億円を超えてなおヒット中の李相日監督(51)の「国宝」も上映時間が2時間55分。年を取るとトイレが近くなるものだが、こちらもセーフ。ただ、びくびくしながら見るのは正直疲れるもので、作り手はそのへんも考慮してほしい(苦笑)。

 たまたま長尺の作品を引き合いに出したが、「国宝」「宝島」ともスタッフやキャストの熱量がハンパじゃないのは確か。見ているこちらも手に汗を握ったり、ため息をついたりと大忙しで、逆に言えば、その分、肩が凝ったりもする。

 対して「旅と日々」は一服の清涼剤のようなさわやかさを持ちつつ、実に深い一編に仕上がっていた。人間の日々の営みからにじみ出てくるおかしみや悲しさ。そこに劇的なものはなくても、新たに一歩を踏み出してみようかと背中を押してくれる何かがある。

 しかも上映時間は1時間29分。なんの心配もなく楽しめた。これまで故石井輝男監督や竹中直人(69)らがつげ作品を映画化しているが、三宅監督も基本的に原作に忠実に描いたのはつげ氏へのリスペクトに違いない。夏の「海辺の叙景」と冬の「ほんやら洞のべんさん」の組み合わせは絶品。作品を貫く旅人をシム・ウンギョン(31)演じる女性脚本家に設定。雪のカマクラを意味するほんやら洞のようなべんさんの宿を訪れるのは原作では男の漫画家だが、これも違和感はなかった。

 「海辺の叙景」に登場する河合優実(24)と高田万作(18)、シム演じる脚本家に旅に出るように勧める大学教授役の佐野史郎(70)も“つげワールド”ならぬ“三宅ワールド”に溶け込んでいた。

 そして何よりべん造を演じた堤真一(61)の自然体の演技は圧巻。堤版のべん造を構築して魅せたのはあっぱれだった。脚本家を連れて錦鯉を盗みに行き、まんまと成功したものの、宿に戻ってきたときには寒さでコチンコチン…。原作では描かれていないその後の展開も面白かった。

 「ケイコ 目を澄ませて」(22年)や「夜明けのすべて」(24年)など新作を発表する度に国内外から熱い視線を送られる三宅監督。「旅と日々」もスイスで開催された第78回ロカルノ国際映画祭のインターナショナルコンペティション部門に出品され、見事に最高賞の金豹賞を受賞。9月17日に開幕する韓国の釜山国際映画祭からも招待を受けている。

 全国の温泉をフィルムに収めるなど写真家の顔も有するつげ氏。漫画にも投影される叙情的で幻想的な世界をそのまま切り取ったかのような月永優太氏の映像も美しい。封切られたら、この小さくも味わい深い旅をもう一度映画館で見たいと思う。ビターズ・エンド配給。秋のお薦めの1本だ。

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