山﨑努 役作りは欠点探しから“変幻自在” 「顔で演技はしない」感情が顔に表れる

[ 2025年2月16日 05:00 ]

その昔、高名な写真家から「笑顔はまだまだ何十年も早い」と言われた山﨑努。 今回同じアングルでの満面の笑みを見せてくれた(撮影・西川祐介)
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 【俺の顔】俳優の山﨑努(88)は、常に自分を客観的に見つめている。8歳の時に芽生えた自意識は、自分自身を窮屈にしたが、感情が顔に表れるまでの真理に気がついた。「その人自身がにおってくるのが、顔」。熟成を重ねたその顔は、いかようにもなる柔軟性を身につけていた。(西村 綾乃)

 自宅で行ったインタビュー。玄関で迎えてくれたその顔は、「必殺仕置人」シリーズで務めた念仏の鉄のように硬く、一歩進むことをたじろがせた。

 カメラを真っすぐ捉えた瞳は、レンズを通り越え、撮り手の心を探るよう。レフ板を持つ手が震えたが、キュッと口角を上げてニッと笑った顔は、映画「タンポポ」で演じたタンクローリー運転手が時折見せた穏やかさが透けて見えた。顔の筋肉の柔らかい動きは、リア王、和菓子職人など過去に生きた人物を浮かび上がらせる。

 「顔」がテーマの企画だが「僕は顔で演技はしない」ときっぱり。グラスに注いだ発泡酒をグッと飲むと「外側から始めちゃうとつまんないし、退屈で説明的になるからね」と再び、ニッと笑った。

 「人間は一番大事な感情は隠すもの」。それは、父が復員した日。はだしで駆け出した自分自身に「俺、いまウソをついてるな」と、後ろめたさを感じた8歳の時に気づいた。

 「うれしかったんだけど、自分を観察する自分の存在を認識したんだよね。自意識に気がついた瞬間だった」

 自分とは何か――。影の存在は自分にとって邪魔でやっかいなものだが、役作りは、人物の影や欠点を探すところから始める。

 「欠点っていうのは、世の中とうまくいっていないところだよね。僕なら、恥ずかしがり屋な部分。セリフに頼らず、自分でイメージしていくと、暮らしが見えてくる」

 1959年に「文学座」に入団。翌年、三島由紀夫の戯曲「熱帯樹」の舞台で主演デビューした。映画「東京夜話」(61年)の豊田四郎監督に「下手くそ」と叱られたが、同「天国と地獄」(63年)でメガホンを取った黒澤明監督は「“歩き方がうまい。リズムの取り方がいい”と褒めてくれた」。

 それは、黙って歩く姿を、汚れた川面に逆さまに映し出すことで、男の異質さを表現した場面。

 「言葉は意味を伝えてくれるものだけど、僕は言葉以外のものでやりとりしたい。セリフよりも、歩くことの方が、表現力が必要と思っていたから、評価されていると聞いて、やった!分かってくれる人が初めて現れたとうれしかった」

 同作で共演した三船敏郎さんに誘われ、三船さんが製作・監督・主演した映画「五十万人の遺産」の撮影のため、フィリピンへ。この撮影中に「天国と地獄」が封切りされると、世界が一変していた。

 「羽田空港に着いたら、物凄い数のカメラマンが待ち構えていた。三船さんを撮ってるんだと思ったら、僕だった。誘拐犯はおまえかって。戸惑う僕の横で、三船さんが“僕は刺し身のツマだよ”と嫉妬したフリをしてた。僕自身に価値があったわけじゃなく、黒澤さんがうまく撮ってくれただけなんだけどね」と戸惑った日を回想。スターの仲間入りを果たしたが「意識した人物はいなかった。自分を買いかぶっていたからね。僕の相手になるヤツはいないと思っていたし、一方で誰が来てもかなわないという思いも抱えていたから」。

 昨年、ステージ4の食道がんで闘病。退院して1カ月ほどだったが、約2時間の取材をよどみなくこなし、順調に回復していることをうかがわせた。「昔は死ぬことが怖かったけど、子供も独立したから心配をしていない。生き物としての責務は果たしたからね」。

 気になる役者業については「山﨑努というエネルギーを2時間半見せるために、チャージし続けないといけない舞台はやらないかもしれない。98年にやった『リア王』で力いっぱいやったし、僕は技術で体力をカバーすることには反対だから。瞬発力を求められる映像にはまた出たい」。そう言ってクシャっと笑った顔は、玄関先にあったシーサーを思わせた。会話を重ねるごとに若返っていく。偉大な俳優の偉大さが垣間見えた時間だった。

 ≪85年高橋曻さんが撮影「怒って」思い出の一枚≫モノクロ写真は1985年、一回りほど下の写真家、高橋曻(のぼる)さんと東京・晴海埠頭で初セッションした時のもの。4×5(シノゴ)と呼ばれる大判のフィルムカメラで2時間近く撮影した。「風が強くて寒い日。努さん、笑顔はまだ早い。怒ってください。怒って、怒ってって言われたけど、コレ見ると全然怒ってないね。でも僕と曻ちゃんの心がしっかりつながってるのが分かる。共感してる。幸せな瞬間だった」。高橋さんが旅立って18年。今回の取材は「笑顔」で撮影した。「曻ちゃん、僕の笑いはまだダメかい?」と穏やかな冬の空を見上げた。

 ◇山﨑 努(やまざき・つとむ)1936年(昭11)12月2日生まれ、千葉県出身の88歳。59年に文学座に入団。60年1月、三島由紀夫の戯曲「熱帯樹」で初舞台、同7月に主演作「大学の山賊たち」で映画デビュー。劇団雲に参加した後、75年に独立。出演作に映画「天国と地獄」「タンポポ」、ドラマ「必殺仕置人」シリーズ、舞台「ヘンリー四世」「リア王」など。2000年紫綬褒章、07年旭日小綬章。

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