寺島しのぶ 今は眞秀くんがまほろば 「父と母の子供」の呪縛から解き放ってくれた

[ 2017年6月20日 09:10 ]

ポーズを決める寺島しのぶ
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 【夢中論】確かな演技力で映画、舞台の垣根なく活躍する寺島しのぶ(44)。毎月びっしりと仕事の予定が入る中で、何よりも大切にしているのは長男・眞秀(まほろ)くん(4)との時間だ。趣味に興じる暇もないくらい育児と仕事で多忙な日々を送るが、母親としての毎日は人生観を変えるほど、かけがえのないものとなっている。

 5月に行われた歌舞伎座「団菊祭」の楽屋。舞台への準備の場が初お目見えとなったわんぱくな4歳児の遊び場に変わって、寺島は少し恐縮した様子だ。「こら、眞秀!」と叱る声に耳を貸さず、息子はおもちゃのピストルを共演者に向けて「バーン」。役者たちが本番さながらの芝居で倒れると、次はおもちゃの刀で斬りつけた。大人たちが「うわーっ」とうめき声をあげながら崩れ落ちる。

 「皆さん、その道のプロだから。素晴らしい撃たれ方、斬られ方をしてくれるのでうれしかったんでしょう。眞秀は憧れて歌舞伎の中に入って、さらに化粧して演じているのだから最高だったと思うんですよね」

 大人たちの優しい気持ちに包まれながら、眞秀くんは演目「魚屋宗五郎」で酒屋の丁稚(でっち)役を1カ月無事に務めた。快活でほほ笑ましい演技には、客席から温かい拍手が起こり、寺島も毎回涙ぐんだ。

 夫でフランス人アートディレクターのローラン・グナシアさんとは「眞秀が幸せと思える環境にいるのだったら全力でサポートしよう」と話し合っている。歌舞伎が好きならそれでいい。もし違うことに興味を持つのならそれを支えてあげよう。「まぁ、初お目見えは本当に楽しんじゃったみたい。次も早くやりたいと言ってます」と顔をほころばせた。

 女優業をしながらの育児は忙しさのあまり大変と感じることもある。幼稚園や稽古事の送り迎え。時間を見つけては公園や動物園にも連れ出す。一緒に料理を作ったり、寝る前には必ず本を読んであげたり。同じマンションの友達の家に毎日のように遊びに行きたがり「友達のママも困るでしょ」とたしなめると「ママなんて大っ嫌い!」と言われたことも。それでも、無邪気な寝顔を見ていると心の底から癒やされる。

 「役者だったら代わりはいくらでもいる。でも、母親に代わりはいないんです。私の周りにも素晴らしいお母さんはたくさんいるんだけど、彼にとってはどんな母親であっても私が一番なんだな、と思わせてくれる存在なんですよね」

 5月の歌舞伎座には初舞台となった坂東彦三郎(40)の長男、坂東亀三郎(4)が出演し、市川海老蔵(39)の長男・勸玄くん(4)も楽屋を出入りしていた。「近くに行くと、みんなで歌舞伎の演目や踊りの話をしてるんです。凄いなぁと思った」と目を丸くした。

 子供の頃、寺島もそんな環境にいた。海老蔵や弟の尾上菊之助(39)、市川染五郎(44)らと楽屋でたわいもない遊びに興じていた。しかし、女の子は歌舞伎俳優になれないのが分かり始めると、歌舞伎の世界から遠ざかった。

 家族にも複雑な感情を持つようになった。父は人気役者の尾上菊五郎(74)で母は大女優の富司純子(71)。弟は音羽屋を継ぐために英才教育を受けていた。大人になる前から「家族から離れた道からスタートしないと一生この家族の中の、父と母の子供ということで終わってしまうんだろうな」と感じていた。

 ただ、その思いこそが女優・寺島しのぶをつくった。地道に活動していた舞台女優が2003年の主演映画「赤目四十八瀧心中未遂」で親の反対を押し切り、大胆なヌードに挑戦。各映画賞の主演女優賞を総なめにした。以後、女優として大きな花を咲かせることになる。

 現在稽古中の舞台「アザー・デザート・シティーズ」は、そんな寺島の半生を追体験したような作品だ。ヒロインは芸能一家に育ち、有名な両親と弟がいるのも一緒。若いころ、親と距離を置いていたところも似ていた。初めて台本を読んだとき、「これって私だ」と思わずつぶやいた。

 舞台のヒロインと家族はある事件をきっかけに亀裂が入る。一方の寺島はというと、子供の誕生とともに家族へのわだかまりは、すっかり消え去った。

 「子供を育てる立場になったら、親の気持ちも分かるようになったし、しょせん私なんて幸せな悩みで、甘やかされてとてもいい環境で育ったんだなと思えるようになりましたね」

 スポットライトを浴びる女優という仕事のスタンスさえも、子供ができたことで、違う目線で見られるようになった。

 「もし子供がいなかったら、もっと好き勝手言ってたし、自由奔放だったと思うんです。でも今は子供への影響を考える。子供が私を“いい親”にさせてくれるんですよ」

 自分の生き方さえも根本から変えてくれた眞秀くん。紛れもなく母・寺島は子育てに夢中だ。

 ≪アザー・デザート・シティーズ ヒロインの境遇似ている≫現在は寺島は都内で主演舞台「OTHER DESERT CITIES(アザー・デザート・シティーズ)」(演出熊林弘高、7月6〜26日、東京芸術劇場シアターウエスト)の稽古の真っ最中。物語は寺島演じる作家のブルックが、芸能一家である家族の秘密を書いた暴露本の出版を宣言することから起こる対立を描く。舞台セットもほとんどなく、麻実れい(67)ら出演者5人の表現力が勝負の作品。寺島は「チェスのように計算された演出が見どころ。普段は友達に出演作の宣伝とかしないんだけど、これは、ちょっと見に来てと言い回ってます」と自信をにじませている。

 ≪8月名古屋・大阪公演「座頭市」海老蔵と共演「楽しみ」≫2月に海老蔵と共演した六本木歌舞伎「座頭市」が、8月に名古屋と大阪で上演されることに寺島は「凄く楽しみ」と声を弾ませた。俳優としても人間としても尊敬しており「好奇心旺盛だし、言いたいこと言うし、ピュア。40近くなってもスタンスが変わらないのは凄い」と評した。海老蔵の妻・小林麻央の闘病については「彼の今の状況は他人には計り知れないけど、彼の人生に少しでも加わりたいなと思っています」と、支えになることを願っていた。

 ◆寺島 しのぶ(てらじま・しのぶ)1972年(昭47)12月28日生まれの44歳。東京都出身。92年、文学座に入団。舞台女優として頭角を現す。2000年に映画「シベリア超特急2」で映画デビュー。10年の「キャタピラー」でベルリン国際映画祭の最優秀女優賞を受賞。最新作はカンヌ国際映画祭でも上映された主演作「Oh!Lucy」。

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