最多記録30年 神谷八段の心意気「ソフトに頼って生き残るくらいなら…」

[ 2017年6月20日 08:30 ]

公式戦28連勝の最多記録を持つ神谷広志八段
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 昭和を感じさせる棋士だった。将棋の最年少プロ、藤井聡太四段(14)が21日、歴代最多記録の公式戦28連勝をかけた対局に臨む。1987年にその最多記録をマークし、記録を30年間守り続けている神谷広志八段(56)を先日、取材した。

 静岡県浜松市を拠点に活動する、ベテラン現役棋士だ。最近の藤井フィーバーを「本当に起こっていることとは思えない」と語る。「町内の草刈りに参加したら、知らないおじさんに『あんた凄い記録持ってるんだね』なんて言われたりする。家の中で30年眠っていた骨董品を引っ張り出されて、褒められている感じ」。ぼんやりテレビを見ていると、突然自分の名前と記録が出てくることにも、もう慣れたという。

 プロ6年目の87年、前年に塚田泰明九段(52)が作った22連勝の記録を、わずか1年で更新した。「16連勝したときに、塚田君が記録を破られないかと心配してるって聞いたんです。それならよし、破ってやろうと」。飛車先不突き矢倉という当時の「ドル箱戦法」を武器に、苦しい相手でも時には運を味方に付けて乗り越えてきた。

 最初のうちは専門誌に取り上げられる程度だったが、23連勝の新記録を作ってからは、一般メディア取材も増えるようになったという。「28連勝で止まった後の取材で、週刊誌が将棋盤を28台持ってきた。全対局の投了図を並べて、その真ん中でポーズをとるなんて写真も撮りました」。当時を振り返り、懐かしそうに笑った。

 近年は「オッサン流」を名乗り、味のある解説で将棋ファンから根強い人気を誇る。研究はひたすら詰め将棋を解くこと。「ソフトに頼って生き残るくらいなら、飢え死した方がまし。現代は飢え死なんかしないって分かってて言ってるんだけどね」。今年、個人指導している弟子2人がプロの登竜門である奨励会を受験する。孫がすでに3人。42歳も離れた藤井四段のことを語るときも、時おり優しいおじいちゃんのような表情をのぞかせていた。 (記者コラム)

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2017年6月20日のニュース