クミコ新曲「最後の恋」被災地で披露へ

[ 2011年5月5日 06:00 ]

レコーディングスタジオでのクミコと大石静さん

 昨年「祈り」で紅白歌合戦に初出場したクミコ(56)が、新曲「最後の恋~哀しみのソレアード」を25日にリリースする。3月11日の東日本大震災の当日、宮城県石巻市に滞在。あまりの衝撃にしばらく歌うこともできない状態が続いた。そんなクミコを奮い立たせたのは、人気脚本家・大石静さん(59)が作詞した大人の恋がモチーフの生命(いのち)の賛歌だ。

 あの日、クミコは石巻文化会館でリハーサル中だった。不気味な地鳴りと激しい揺れ。誰かの「避難してください」の声に、何も分からず走りだした。小高い場所の採石場。作業所の車で、逃げてきた人たちと一緒に一晩明かした。

 「おじいちゃんがいました。綿の下着が汚れ灰色でした。ひとことも言わず、ぼう然としていました。おばあちゃんが目の前で流されてしまったそうです。次の日、おじいちゃんは1人でおばあちゃんを捜しに行ってしまったようです。みんな必死に止めたのに」

 奪われた尊い命、変わり果てた町。誰が悪い訳でもない、しかし、どうすることもできない理不尽な出来事に、自分の無力を感じた。「歌なんて何の役にも立たない」「もう以前の気持ちで歌うことなんてできない」。自らを責め、苦悩の日々が続いた。

 「最後の恋~哀しみのソレアード」は、石巻でアンコール曲として初めて客席を前に歌う予定だった。この時期に、なぜ恋なのか、それも最後の恋。ふとあの夜の、最愛の人を失ってしまった老人の顔が浮かんできた。

 「愛には果てしないエネルギーがある。愛の始まりは恋。それは生きることと同じ。しゃがみこんだ人を勇気づけるもの。こんな時代だからこそ、この曲が必要なんだ」

 早ければ来月にもあの美しい海の町で、生命の歌を歌うと心に決めている。

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2011年5月5日のニュース