[ 2010年10月3日 06:00 ]

「椿姫」第2幕、ジェルモン父子役のヴァレンティ(前)とキーンリサイド(C)長谷川清徳

 ところでネトレプコは実力よりも人気が先行していると辛口の評価をする専門家も一部にいるようです。私は今回、初めてネトレプコのステージを体験したわけですが、彼女に対してまず強く感じたのは稀代のカリスマ性を備えているということです。ネトレプコが醸し出す「美の世界」は、観客・聴衆はもとよりオーケストラや他の出演者までも吸引していくような力があったのです。

第1幕後半、コロラトゥーラの聴かせどころでは速いテンポを維持することが出来ず、指揮者がテンポを落として合せる場面がありました。第1幕最後の音を1オクターブ上げて、高音を出せることをアピールする歌手もいますが、それもなし。コンシェルジェによると記譜通りの音程で歌ったそうです。言い換えれば大向こう受けするような歌唱技術の披瀝はないのですが、アルフレードに心惹かれて揺れ動く心情を切々と歌い上げるシーンあたりから、憂いを帯びた少し低めの声と彼女の姿に私はぐいぐいと引き寄せられて行きました。それは有無も言わさず会場全体をネトレプコ一色に染め上げるほどの魅力を持ったものでした。
 さらに私が座った3階席からもハッキリと分かるほどの見事な演技力。第2幕、アルフレードとの別れを前に「私のことを忘れないで」などと、心とは裏腹の態度を取るシーン。これまで観たヴィオレッタの中で最も切なく目頭を熱くさせられるものがありました。第3幕では、死を前にしたはかなさですすり泣かせるというよりも、ヴィオレッタの最期を圧倒的な表現力で見せ、聴かせてくれたのです。

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2010年10月3日のニュース