【内田雅也の追球】打席での勢いと冷静さ

[ 2026年5月1日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神10―2ヤクルト ( 2026年4月30日    神宮 )

初回、大山は先制の2点適時二塁打を放つ
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 阪神2桁得点の端緒を開いたのは大山悠輔である。1回表1死満塁、ヤクルト先発・高梨裕稔から右翼線に先制の2点二塁打を放った。

 大山らしい打席だったとみている。同じ打席に変身した2人の大山がいた。2ストライクまでの思い切りと追い込まれての辛抱や粘りである。

 初球、外角スライダーをフルスイングして空振り。次いで内角シュートをファウルして2球で追い込まれた。カウント0―2から内外角の速球、フォークを見極めてフルカウントまで持っていった。低めフォークをファウルで粘り、高め速球をはじき返したのだった。

 大山は<チャンスの打席では勢いと冷静さを使い分けたい>と1月に出した著書『常に前へ』(ベースボール・マガジン社)に記した。<若い頃はとにかく来たボールを必死で打っていました>。プロ10年目の経験で冷静さも備わっていた。

 打撃の極意だろう。通算3085安打のプロ野球記録を持つ張本勲(本紙評論家)は「がむしゃらさは必要不可欠だが、その中にも冷静さが必要。欲望60%、無欲40%の割合で打っていた」と語っている。今はヘッドコーチ・和田豊がよく伝えていた「心は熱く、頭は冷静に」である。

 今季の大山は満塁機に強く、5打席で3打数2安打(本塁打、二塁打)に押し出し四球と犠飛。ただ、22日DeNA戦(横浜)では満塁弾で2打席連発しても敗れ、喜べなかった。試合後「勝って良かったです」と繰り返したのは本音だろう。

 この大山の一打が猛打を呼んだ。続く小幡竜平は「大山さんが打って先制してくれたので、楽な気持ちで打席に入れた」と中前適時打した。伏見寅威は2安打2打点、熊谷敬宥は適時二塁打、代打の中野拓夢も適時打した。5番以下で7打点と下位打線がよく打った。
 4月を終えて貯金8。優勝した2023年、25年はともに4月で貯金3だった。上々である。

 もう一つ。2年ぶり勝利投手となった西勇輝のヒーローインタビューに聞き入った。「支えてくれるファン、家族、周りのスタッフに恩返ししたい気持ちは強いんですけど、心と体が一致しない時間が長かった……」

 苦闘の日々を思う。<感謝したいという欲求は食欲・性欲・集団欲に近いレベル>と渡部昇一『人間らしさの構造』(講談社学術文庫)にあった。なるほど、感謝の力である。 =敬称略= (編集委員)

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