【100歳 甲子園球場物語】コンクリートむき出しの外壁覆ったツタ やがてシンボルに
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甲子園球場のシンボルの一つにツタがある。外壁を覆うツタは球場完成の1924(大正13)年に植えられ、100年にわたり、甲子園を見守り続けてきた。戦災、震災、公害、火事、改修…を乗りこえ、名物として人びとに親しまれてきた。ツタの物語を書いてみたい。 (編集委員・内田 雅也)
甲子園球場が1924(大正13)年8月1日に開場した当時の写真を見ると、外壁はコンクリートの地肌がむき出しになっている。開場式の絵はがきを見ると、グラウンドにもバックネットがない。
わずか4カ月半の突貫工事で完成させ、何とか13日開幕の第10回全国中等学校優勝野球大会(今の全国高校野球選手権大会)に間に合わせた格好だった。
大会後、阪神電鉄は球場外壁の作業に取りかかった。玉置通夫『一億八千万人の甲子園』(89年・オール出版)によると、早くから建設を決断した専務(後の代表取締役)の三崎省三、球場を設計した技師・野田誠三(後の社長、球団オーナー)が話し合っていた。
結論として、ツタを植え、外壁を覆うことになった。繁殖力が強く、見た目もいい。欧米を視察旅行していた三崎はライン河畔の古城をイメージしていたのかもしれない。
ただ、ツタがいつ植えられたのか、正確な資料は残っていない。
元阪神園芸常務・北村博史が阪神電鉄社報(84年10月1日発行)に書いた文章に、野田の日記が紹介されている。24年12月2日付に<甲子園運動場の造園工事のため、阪上深秀園(しんしゅうえん)来る>とある。遅くとも冬、いや夏の大会後の秋にはツタが植えられたのではないか。
この阪上深秀園は1903(明治36)年創業の老舗「植木匠」。今も深秀園として西宮市で造園業を営む。同社は「戦災や震災で資料は一切残っていない」。阪神電鉄によると、68(昭和43)年9月に阪神園芸が設立されるまで、深秀園がツタの管理を行っていた。
阪神園芸は元は阪神パークの園芸部門。土や芝のグラウンド整備を行うようになったのは79年。ツタの管理の方が早かったわけだ。
さて24年秋か冬に植えられたツタは豊富な地下水、良好な日当たりで狙いどおり、壁面を覆っていった。約430株、葉の総面積はおよそ8000畳分あると言われた。球場のシンボルとなった。
終戦前の45年8月6日、西宮大空襲では焼夷(しょうい)弾を受け、一塁側アルプススタンドや外野席が炎上し、ツタも焼けた。
戦後は肥料の入手が困難で阪神パークのゾウの糞(ふん)で代用したこともあった。
58年5月には内野スタンド部分の幹が何者かによって切断される事件もあった。高度成長期にはスモッグで一部が枯れた。95年1月の阪神大震災にも耐えた。97年には漏電により一部が燃えた。幾多の受難を乗り越えてきていた。
2006年からのリニューアル工事「平成の大改修」ではツタをすべて伐採しなくてはならなかった。
甲子園球場にほど近い旧鳴尾村で育った俳人の木割大雄(85)は『NHK俳句』のテキストで『俺の甲子園』を連載していた。2005年2月号でツタへの思いを書いている。<建て替えの話がささやかれている。だが、蔦(ツタ)だけは守られるだろう。去年の台風にも負けなかったし、今や、堂々たる古木の風格を見せている>。実際、相当に太い幹に育っていた。<蔦のない甲子園球場なんて考えられない>はファン、そして関係者の思いだった。
ツタの再生プロジェクトが行われた。日本高野連は2000年夏、全国の高校に甲子園のツタの苗木を贈っていた。生育の良いものを甲子園に「里帰り」させた。233校が参加した。さらに伐採当時の種を養生地で育て、再び球場に植えつけた。2009年、ツタは帰ってきた。
20年前『80歳甲子園球場物語』を連載した際、三崎のめい、三崎悦子(当時87)に会った。学んでいる俳句で「先生からマルをもらったの」と喜ぶ句を見せてもらった。
球場の喚声聞きて蔦若葉 悦子
「あの緑は本当に美しく心に残りますものね」。球場完成は7歳の夏だった。伯父によく甲子園に連れていってもらった。女学校時代はラジオ中継を聴き、スコアをつけるほどになっていた。古い記憶にもツタが刻まれていた。 =敬称略=
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