【野球人と武人画師の異色対談(上)】松坂大輔氏が武人に こうじょう雅之氏の「覚悟」に共感

[ 2022年2月26日 06:30 ]

後日組<松坂大輔氏×こうじょう雅之氏対談> こうじょう雅之氏(右)から絵を受け取る松坂氏(撮影・光山 貴大)
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 松坂大輔氏(41)が武人になった──。スポニチ本紙評論家を務める松坂氏が引退記念にと、京都出身の水墨画家で「武人画師」としても知られる、こうじょう雅之氏(43)に依頼した「武人画」が完成。2枚の作品が松坂氏に手渡されるとともに、「野球人」と「画家」による異色の対談が行われた。

 2人が実際に顔を合わせるのは初めて。松坂氏側から、引退する際にお世話になった人へ送るものに、何か喜んでもらえるものはないかと考え、こうじょう氏に依頼した。その作品2点が、こうじょう氏から、松坂氏へ手渡された。

 こうじょう雅之氏(以下、こうじょう)「『松坂大輔確信一投之図』は、これから投げようとするところ、もう一つは、『松坂大輔一球渾身之図』です。投げ終わりの渾身の力が込められたものです。色々と体の動きを見ながら、できるだけ近い状態を絵にしました」

 松坂大輔氏(以下、松坂)「原画を見させてもらった時と受けるインパクトの大きさが全然違いますね。僕の投球フォームそのものだと思います。僕の投球フォームの中でも、“これが松坂のフォームだな”と分かるポイント。本当にありがとうございます」

 こうじょう「左手のグラブの位置一つだけで全然印象が変わるので、ほぼ(所属した)全部の球団のフォームを見ました」

 松坂「左手の使い方、グラブの使い方、僕そのものだと思います。投げ終わりの絵(一球渾身之図)なんか、よく真似もされましたので」

 こうじょう「本音を言えば、描きたくなかった(笑い)。松坂さんのことは、みんな知っているので。相当コアな松坂さんファンの方もいると思うので、何これ、と思われないようにと思っていた」

 松坂「本当にありがとうございます。デザインも他にないものです。(この作品が入った引退記念品を)渡したみんなに喜んでもらっています。本当に引退の記念に作っていただいて感謝いたします。想像のはるか上で、きました。渡した人たちの反応もうれしくて、本当にお願いして良かったと思います」

 2人には接点がある。こうじょう氏は、近江(滋賀)の一員として1996年夏の甲子園に進んだ。松坂氏は言うまでもない。横浜高(神奈川)のエースとして、1998年の甲子園で春夏連覇を達成した。

 こうじょう「小、中、高校と野球をやっていました。高校は近江高校で96年の夏の78回大会に出ています」

 松坂「学年で言えば、2つ上ですね。その年、横浜高も出ていますよね。近江は僕たちの98年も出ていますよね。よく覚えています」

 こうじょう「甲子園で春の大会で見る以前に、後輩から“すごいのがいる”と。春に出てきて、150キロを超える投手がいると。高校野球という一つの時代の切り替わりになったんじゃないか。一人の150キロ投手が現れたら、そこから150キロ投手がたくさん現れたように、時代が大きく動いた瞬間でしたね。地元が京都なので、夏の決勝は(京都代表の京都成章が松坂にノーヒットノーランを喫し)それはそれでみんなで大いにわきました。感動と言うより、自分たちがやってきた野球と異質なものがこれから行われるんだろうと思ってみてました」

 話は1枚の絵に魂を落とし込むことへの思いへと発展した。松坂氏は昨季限りで現役を引退、野球評論家として、野球を言葉にする難しさを感じている。分野は違えど、共感するものがある。

 こうじょう「そもそも武人というのは“覚悟を持った人”をイメージして書いている。松坂さんは覚悟を持った人、そのものだった。投げ抜いて、生き抜いて来た人が、最後にあの引退の投球をみんなが見て、初めて“この人はこんなに戦ってきていたんだな”と思っただろうし、僕も再度、認識した。描こうとなった時にまったく違和感がなかった」

 松坂「実際どういう作品が出来上がってくるのか楽しみだった。サンプルを見させてもらったが、実際に出来上がったものを見た時のインパクト、衝撃の方が大きかった。僕もまだこういう立場(野球評論家)になって新しい人生が始まったばかりですけど、その人の印象をどう見ている人たちに伝えるために、どう仕上げていくか。取材対象の人をもっと深く知ってもらうためには、どう話したり、表現するのがいいかと考えています。でも、似ているとかは言えないですね。それまで積み重ねてきた、長さも重さも違いますから。ただ実際、今回、引退記念で作ってもらう話をさせてもらう中で、僕の思いというものを、作品にしてもらう、実際に出来上がってきたものを見て、伝え方というんですかね、人の思いを何とか見ている人や聞いている人に伝わるように仕事をしていきたいと思いますね。言葉で伝えられるような人間になりたいですね」

 松坂氏は常々、「色々な分野の一流の人の話を聞いてみたい」と話してきた。こうじょう氏の話を聞く、その目は輝いていた。

(下)に続く

 ◇松坂 大輔(まつざか・だいすけ)1980年(昭55)9月13日生まれ、東京都出身の41歳。横浜高3年時に甲子園春夏連覇。98年ドラフト1位で西武入団。99年に新人王、01年の沢村賞獲得まで3年連続最多勝。07年からレッドソックスなどMLBでプレー。15年にソフトバンクで国内復帰、中日、西武に所属し昨季限りで現役引退。NPBで114勝65敗1セーブ、防御率3・04。MLBでは56勝43敗1セーブ、防御率4・45。2度の五輪に出場。WBCでは06、09年に出場し連続MVPで日本の連覇に貢献した。

 ◇こうじょう 雅之(こうじょう。まさゆき)1978年生まれ、京都府宇治市出身の43歳。2014年から武人の姿を墨で描く「武人画師」として活動を開始。NHK大河ドラマ「真田丸」カレンダーのデザイン、映画「スター・ウォーズ」のオフィシャル武人画など、コラボレーション作品を発表。2018年から宇治市観光大使も務める。

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