女子バスケの日本代表がもたらした衝撃 ホーバス監督の言葉に見え隠れしている躍進の原動力

[ 2021年8月7日 12:12 ]

日本代表を率いるホーバス監督(AP)
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】英作文で「最初から最後までエンジン全開でノリノリにならないとね…」という問題が出たら、女子バスケの日本代表を率いる米コロラド州出身のトム・ホーバス監督(54)がフランスとの準決勝(6日)で勝ったあとに語った言葉を引用するといいかもしれない。

 「We need to be cooking on cylinders from the jump to the end of the game」

 五輪5回目で日本は初めて準決勝に進出。さらに予選リーグに続いて2012年のロンドン五輪で2位となっているフランスを再び下し、「自分は東京五輪で米国と金メダルをかけて対戦するために監督として雇われた」と語った日本代表の指揮官は、2017年に締結した“契約条項”を4年後にきちんと形あるものに変えてしまった。

 金メダルをかけて対戦する相手は五輪で過去6連覇中の米国で、ブックメーカーの総合サイトでもある「オッズチェッカー」が提示している8日の決勝戦のオッズでは米国の1・05倍に対して、日本はなんと17倍。対象が2チームの勝利予想において、ブックメーカーの世界ではダントツの“大差”である。

 しかしホーバス監督は「Cooking」に“料理する”以外の意味をこめて今、置かれている立場を表現。和訳の是非については学校や予備校、塾の先生にお任せするが、ここまで日本の女子バスケ界を押し上げた指導者の言葉の中にはさらなる高みが含まれているように感じた。

 「自身過剰でもなく、かといって緊張もしておらず、今はみんなスイッチが入っている」

 あえて“スイッチ”というカタカナの日本語で訳してみたが、ホーバス監督が使った本当の英語は今の日本人ならきっと誰でもわかってもらえる「Click(ing)」。フランス戦にいたるまでの日本選手の精神状態を表現したものだが、なるほどそこに快進撃の要因があるのだなと理解している。

 日本は予選リーグB組目の2試合目で米国に69―86。決勝戦はフランス同様、同じ相手との2戦目となる。米国は五輪では54連勝中で通算70勝3敗。しかし今、日本は目に見えない大きな力を得ている。

 フランスとの準決勝。海外メディアの解説者の1人は「このアリーナには本来ならいるはずの観客がいません。日本は大事なホーム・アドバンテージを失っているのにここまでよく戦っています」と語っていた。バスケットボールという競技は、観客と選手との距離が近く、しかもフェンスなどで仕切られてはいない。アウェーチームの選手がフリースローをするときには、視界に入っている席にいる観客が大声を挙げ、手を振ってそのシュートをアリーナの外で“ディフェンス”するのがお約束だが、五輪史上初めて日本代表は開催国としてその恩恵を授かることができなかった。

 その逆境?をはねのけての決勝進出。もはやどれほど米国が過去に素晴らしい成績を残し、今もなお勝ち続けているとしても何も恐れるものはないだろう。

 「我々はインサイドでは彼女たち(米国)を止めることはできない。でもアウトサイドで、40分間にわたって彼女たちは我々を止められますか?」

 ブックメーカーのオッズ担当者がこの言葉を聴いていたら数字を少し修正したかもしれない。東京五輪の3点シュートの成功率は5試合で43・6%。NBAウォリアーズのシュートの名手、ステフィン・カリー(33)の昨季成功率(42・1%)を超えている。

 「Amazing Run(驚きの快進撃)」と英語で表現されている女子バスケの日本代表。ブックメーカーの担当者を驚かせる試合がもうそこに迫っている。新型コロナウイルスの影響でホーム・アドバンテージを失った感のあった「さいたまスーパーアリーナ」。もしかしたら空席に見える座席には、日本全国の応援団の気持ちと情熱と魂が鎮座しているのかもしれない。

 「We need to be cooking on cylinders from the jump to the end of the game」

 さあ、今度は選手同様、テレビの前にいる全員がホーバス監督の指示に従うとき。五輪史上に残る素晴らしい40分間を期待している。

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には7年連続で出場。還暦だった2018年の東京マラソンは4時間39分で完走。

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2021年8月7日のニュース