“永遠のテーマ”原点は双葉山 大相撲夏場所の見所は「立ち合い」

[ 2016年5月16日 12:30 ]

大相撲

 両国国技館で開催中の大相撲夏場所は16日から後半戦に突入した。優勝争いは2場所連続37度目の優勝を狙う横綱・白鵬と悲願の初賜杯を目指す大関・稀勢の里がともに全勝を守る展開となっているが、今場所の見所の1つとして「立ち合いの正常化」がある。

 3月末に日本相撲協会は新体制となり、土俵内の責任を預かる審判部も二所ノ関部長(元大関・若嶋津)、友綱副部長(元関脇・魁輝)、藤島副部長(元大関・武双山)の3人が幹部に就任。新たな審判部の幹部は「あまりにも乱れている」と立ち合いを含めた土俵上の所作を厳格化することで一致した。早速、今場所前半から手をついていない力士がいれば、その場で相撲を止めてやり直させる場面が何度も見られた。実際に5日目には横綱・鶴竜が、6日目には大関・豪栄道がともに立ち合い不成立でペースを乱して初黒星を喫してしまうなど優勝争いにも少なからずの影響を与えている。

 二所ノ関部長は立ち合いについて「永遠のテーマ」と言う。その言葉通り、相撲協会はこれまでも定期的に親方衆、関取衆、行司らを集めて立ち合いに関する研修会を開いて正常化を図ってきた。相撲協会広報部によると、最初に研修会開催を呼びかけたのが、伝説の69連勝の大記録を持つ“不世出の横綱”双葉山の時津風理事長。死去する約半年前の68年6月に「第1回研修の会」を開き、蔵前国技館の相撲教習所で理事長自らが正しい立ち合いの講義を行った。当時のスポニチ本紙を見返すと、時津風理事長は横綱・大鵬ら出席者に「立ち合いは低い体勢から上昇し、すくい上げるように立つのが良い」などと約40分にわたって熱弁し、その後、本土俵で二子山親方(元横綱・初代若乃花)がまわしを締めて実技指導。最後に理事長が「要は心構えだ。やろうと思えばできる。本場所で乱れるのは普段の稽古を真剣にやらないからだ」と締めくくった。

 時津風理事長亡き後もその遺志は引き継がれ、立ち合いの研修会は現在まで計12回開催。その都度、立ち合いの教科書にされてきたのは双葉山の所作だった。春日野理事長(元横綱・栃錦)時代の84年8月には力士会後に双葉山の映像を見せて指導。二子山理事長(元横綱・初代若乃花)時代も活発で、89年6月に理事長自らが講義、90年5月には双葉山の16ミリフイルムを見せて正常化を呼びかけた。元横綱・佐田の山の出羽海理事長も92年10月に双葉山の立ち合いのビデオを見せた上で、現役の貴花田(現貴乃花親方)と琴の若(現佐渡ケ嶽親方)をまわし姿にさせて研修。91年秋場所から98年名古屋場所までは立ち合いで待ったをした力士に制裁金を科す制度も導入されていた。

 相撲協会の勝負規定には「立ち合いは腰を割り、両拳をつくことを原則とし、制限時間後、両拳をついた場合は待ったを認めない」、審判規則にも「行司は、勝負の判定を決すると同時に、その競技を円滑に進行させ、両力士を公平に立ち上がらせるために指導し、助言をする」とある。広報部の資料によると、元横綱・双葉山の時津風理事長は生前時に「立ち合いの公平は力士と行司が三位一体となって生まれる」と言った。偉大なる先人が伝承し、乱れればその都度正常化を図ってきた「永遠のテーマ」。その原点には双葉山あり――。再び相撲協会が立ち合い正常化に乗り出した今、現役力士や親方衆はその重みを知る時期にあると思う。(記者コラム・鈴木 悟)

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