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【さくらいよしえ きょうもセンベロ】スーパーな昼飲み!

[ 2015年10月9日 05:30 ]

倉井ストアーを切り盛りする(左から)関寺順子さん、倉井金次郎さん、隆司さん
Photo By スポニチ

 総菜を肴(さかな)に飲む。秋雨が降りだした午後、“センベロラ イター”さくらいよしえが向かったのは葛飾区立石。安酒場が並ぶ駅前を横目に訪れた「倉井ストアー」。昭和の香りがする異次元空間で、ゆったりと昼酒を。心地よい酔いが顔を秋色に染める。

 初訪問の日、わしの中にもう一人の「センベロ主婦幸子」が誕生した。幸子は貞淑な人妻だが偶然スーパーで酒が飲めると知り、夫に隠れて昼酒センベロに目覚めるのだ。

 店には生活雑貨やしょうゆなど食品の陳列棚、精肉のショーウインドーがあり、厨房(ちゅうぼう)からはじゅば~と揚げ物の香ばしい音色が響く。そして壁一枚を隔てて酔客らの陽気な声。

 店は昭和33年に肉問屋として創業、昭和35年に小売りを始め、ほどなく生活用品も売るように。

 平成元年になると、イトーヨーカドーができたため、スーパー兼精肉店兼弁当店兼、酒も飲める食堂へと奇跡の進化を遂げた。

 きょうも奥に腰掛けほほ笑む御大。彼の作る渦巻きの断面美を誇るチャーシューの味には毎度悶絶(もんぜつ)する。大瓶ビールはまさかの450円だ。定食各種は目玉焼きからカツ煮、カキフライ、焼き肉までなぜか一律600円。もっとも地味な目玉焼きが酒のアテにばんばん出る。

 手酌酒をしながらポテトフライにちょい辛のモツ炒め、揚げたて鳥から揚げに幸せをかみしめる。
 
 隣客はすでに空き缶を積み上げタワーを作っている。負けてられぬと幸子も缶チューハイ「直球勝負」(レア銘柄)を追加。肴がなくなればカウンターへ。子持ちカレイにひじき煮まで所狭しと並ぶ。

 胸が高鳴る。肉料理がうまいのはもちろん、魚は目利きの御大が足立市場で仕入れる。最後は姉さん(長女)が作る野菜と肉のうま味が溶け込んだ味噌汁でシメ。この秘密の悦楽のおかげで今夜も夫にも優しくできるだろう。

 外付けのトイレに行くとツバメが頭上を横切った。兄貴(次男坊)が「スズメもツバメも店の中まで遊びに来るのよ。焼き鳥にならなきゃいいけどね」、「やだアハハ」。極上のアットホームとささやかなギャグが幸子を喜ばせる。

 外を見ると雨。「傘あります?」。ここは100円で傘を貸し、返却すると100円バック。これが素晴らしい再訪の口実になるのだ。

 数日後、傘を返しにいく。「まあわざわざ?」「近所に用があって」とうそをつく。100円を返され計画通り食堂で飲んでいると、兄貴が「これ揚げたて」とコロッケを運んできた。

 傘の恩返しは1杯では済まぬ。天気予報を見ると夜は小雨マーク。自分の傘はない。わしは(幸子は)、ウフフと雨待ちをしながらコロッケをほおばる。 (さくらい よしえ)

 ◇倉井ストアー 飲んべえの聖地、立石にある良心店。600円均一の定食に付く味噌汁は「毎日のように来てくれるお客さんがいるので」と日替わり。“デザート”にうまい棒など駄菓子も付く。酒のアテとなる単品メニューは総菜系。肉や魚は冷凍せず、揚げ物は注文が入ってから衣をつける。たれなどは自家製。だから「夕飯のおかずに一品追加を…」と買って帰る主婦たちも多い。本文中で紹介した「貸し傘」はないときもあるのでアテにしないで。?飾区立石2の18の4。(電)03(3691)4593。営業は午前10時から午後2時。午後4時から8時。土、日曜、祝日定休。

 ◆さくらい よしえ 1973年(昭48)大阪生まれ。日大芸術学部卒。著書は「東京★千円で酔える店」(メディアファクトリー)、「今夜も孤独じゃないグルメ」(交通新聞社)「にんげんラブラブ交叉点」(同)など。

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