×

旅・グルメ・健康

【さくらいよしえ きょうもセンベロ】門仲「お題出し注文」で日本酒

[ 2015年5月13日 05:30 ]

ガレージを利用し美味しい日本酒などを提供する「せ・ぼん」
Photo By スポニチ

 薫風爽やかな5月のたそがれ時。日頃の憂さを晴らしに1杯…とセンベロライター、さくらいよしえが向かったのは東京都江東区の門前仲町。ガレージバー「せ・ぼん」の人となった。個性派店主との頓知合戦に興じていると、そこに現れたのは「モンナカ」の“ラスボス”だった。

 門前仲町は神社仏閣の町である。少々五月病のわし。弱り目にご利益のある神様はどこですかー。「せ・ぼん」は、日中は酒屋、夜は全国各地のレアな日本酒が飲める知る人ぞ知るガレージバーだ。

 一面開け放たれたオープンエアから、道行く人にほろ酔ってほほ笑みかける我々一行。“エマニエル夫人”風の一人掛けソファに家族用の大机、ビジネスチェアなどちぐはぐな家具が妙にくつろぐ。

 1杯310円(100ミリリットル)から飲める日本酒は70種。「而今(じこん)」や「獺祭(だっさい)」もあるが多くは未知の銘柄だ。

 誰かが、「きょうの夜風のような酒を」と言ったのを機に「お題出し注文」が始まった。「ポール・マッカートニーのライブを最前列で聴きながら飲む酒」と言えば、「かしこまりました」とマスターが「星空」を出す。野外フェスのような爽快感が広がる。負けじと当方も「男らしい心で人生に立ち向かえる1杯を」と言えば、八海山のしぼりたて原酒「越後で候」が登場。いわく、「度数は19度。あえて1杯目から強いのを飲むのが男です」。

 凜(りん)とした中にも骨太な重低音が響く。くらくらしながらもやる気がみなぎるのは、酒の力よりも、マスターとの愉快な問答ラリーのせいである。終盤、「オバマではなく習近平と飲む酒!」と難題を放つと、香川の「悦凱陣」(よろこびがいじん)というダジャレな1杯が。最後は「恋敵へ対抗したい」という私情まみれの訴えに、「クボタ(久保田)に対抗して“山間”(ヤンマー)です」。

 おお~と皆で唸(うな)る。と、その時だった。「皆さん、しげおをどうぞよろしくおねがいします」。白い割烹着(かっぽうぎ)姿の老婦人が客席から立ち上がった。

 ハッとした。この町で知らぬ人はいない老舗「魚三酒場」の名物女将だ。彼女の愛あふれる喝と達筆な品書き短冊は、もはやお宝。

 「しげおの母です。息子はやっぱり可愛いですから、ここに寄らないと」。マスターしげおが頬を赤くし母上に手を貸す。「親孝行したくて」会社を辞め、地元で酒屋を始めたしげおは、客のむちゃぶりをオールキャッチする包容力を秘めていた。

 厄よけ大師は、愛の女将と頓知な倅(せがれ)。門前町の夜、弱り目のハートは完全復活となった。(さくらい よしえ)

 ◆せ・ぼん 店主の佐藤恵生(しげお)さんが店を開いたのは2年前。「セボン」は仏語で「良い、おいしい」などの意味。「爽やか系」などと味をリクエストすると佐藤さんがその日にある在庫からぴったりの日本酒を選んでくれる。焼酎、ビールもある。チャージは1人100円。食べ物の持ち込みは1人210円払えば自由。「鍋とコンロを持ち込んだお客さんもいました」とか。前日までに予約すれば“実家”の魚三酒場から刺し身などの出前も可能。東京都江東区牡丹2の4の5。(電)03(5245)2977。営業は月~金曜が午後4時半頃~8時。土、日曜、祝日は同2時半頃~8時。不定休。

 ◆さくらい よしえ 1973年(昭48)大阪生まれ。日大芸術学部卒。著書は「東京★千円で酔える店」(メディアファクトリー)、「今夜も孤独じゃないグルメ」(交通新聞社)「にんげんラブラブ交叉点」(同)など。

続きを表示

この記事のフォト

バックナンバー

もっと見る