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【さくらいよしえ きょうもセンベロ】10本で幸せの赤い徳利

大黒屋は約120人を収容できる野毛屈指の大店
Photo By スポニチ

 センベロ酒場の聖地、横浜の野毛界隈(かいわい)。ライター・さくらいよしえが向かったのはココの歴史を半世紀にわたって見続けてきた老舗「大黒屋」。秋の気配を感じつつ、今宵(こよい)はいつもより少しぜいたくに…。

 創業54年。いろいろあった。嫁いできた時、女将は18歳。夫は頑固一徹、その上、多趣味な料理人。6坪で始めた店は、やがて野毛を代表する大店(おおだな)の大衆割烹(かっぽう)に。名物主人は10年前に他界。その矜持(きょうじ)を守る女将の酒場物語。

 ある時、女将は屋上で伝書鳩を小屋に戻すのに必死だった。「1秒を競うレース鳩、タイムが命!」と夫が厨房(ちゅうぼう)から言う。またある時、夫が猟で仕留めたコジュケイをさばくのに苦心した。またある時、夫の猟犬(中型)が産気づく。へその緒を1匹ずつ結び…16匹子犬を取り上げた。多い。

 「犬がうるさいって近所から文句が来たら、“ならお宅が引っ越せ!”なんて言う主人で“一目置かれ”てました」と女将が目を細める。当時はバイト雇用もなし。「全員社員だ!」。酒は日本酒一本やり。「焼酎は邪道!」

 それでもいかに客に飲ませるかの商才にたけ、「昔は徳利10本飲んだら赤い徳利を1本サービスも。机にだ〜っと並ぶからお客さんも喜んで」

 夫亡き後、女将は早速焼酎もバイト雇用も導入。メニューも増えた。しかし、あくまでジャンクじゃない“割烹”料理だ。

 たとえば、アスパラ巻きにはジューシーな牛肉。煮込みは、豚モツではなくトロトロとろける牛すじ煮込み。自慢の特製マグロブツは「一般的にはブツにしない良いところ」。細部に宿る頑固魂。

 そんなわけで多彩に進化した料理は、3人くらいで楽しむのがベストだ。

 まずは看板料理。高温でがつんと揚げた天ぷらだ。われわれは盛り合わせが到着すると、各自手近な野菜に手を伸ばした。

 塩を少々まぶすだけで黄金色のサクサク衣が香ばしくじゅわっとうまい。

 続いて、自家製味噌で食べる串焼きや、ほんのり甘い玉子焼きに歓喜する。そして、さりげなく皆、天ぷらの皿に視線を戻す。庶民の大本命、海老(えび)天が1つ残っていた。

 笑顔の下で誰が海老を獲得するか、けん制し合う大人3人。無言の戦いが続くその時だった。

 「海老でケンカしませんか。よろしければ人数分を」そうささやく女将。単品注文ができるのは創業以来の伝統だった!「じゃキス天も」「アナゴも」「イカも」。

 皆好きな物を好きなだけ。平和な空気に包まれた。じゃ、ボトルも入れちゃう?いいねいいね。

 ハッとした。頑固親父の遺産、「いかに飲ませるか」トラップだよ、コレ!(さくらい よしえ)

 ◆大黒屋 店の名物女将は宮地ふじ枝さん(68)。娘の由紀子さん(45)らと店を切り盛り。10年前に他界した夫・豊さんの遺志を引き継ぎつつ、“現代の風”も取り入れた繁盛店に育て上げた。2、3階の座敷まで合わせると約120人を収容。界隈でも屈指の大店。天ぷらと焼き鳥がウリで、「キュウリの一本漬け」(200円)などの低価格メニューもそろえる。1階のカウンターには1人飲み客も集う。冬場の人気は鍋物。あんこう、水炊き、磯鍋なども。神奈川県横浜市中区野毛町2の71の4。(電)045(231)2598。営業は月〜土曜日は午後3時半から午後11時。日曜日は午後3時半から9時。年中無休。

 ◆さくらい よしえ 1973年(昭48)大阪生まれ。日大芸術学部卒。著書は「東京★千円で酔える店」(メディアファクトリー)、「今夜も孤独じゃないグルメ」(交通新聞社)「にんげんラブラブ交叉点」(同)など。

[ 2017年9月8日 12:00 ]

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