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【コラム】戸塚啓

フットサルW杯

[ 2012年11月1日 06:00 ]

 10月31日朝から、バンコクに来ている。11月1日開幕のフットサルW杯を取材するためだ。

 空港で「ワールドカップ」の文字を見つけられるかと期待していたのだが、特別なデコレーションはなかった。バンコク市内を走る鉄道の車内やバス停で、ゾウをモチーフにした大会ロゴをかすかに見かける程度である。街はまだ、静かだ。

 こうした大きな大会では、事前にADカードを取得することになっている。写真入りの記者証で、これがないと取材ができない。

 午前中のうちに、バンコク市内のアリーナへ向かった。最寄り駅のホームに降りると、ちょうど乗客の眼に大会ロゴが飛び込んでくるようになっている。音楽が大ボリュームで流れているのは、W杯ドイツ大会からお馴染みになったファンフェスタのリハーサルだ。さすがにFIFA主催の大会だけある。

 早足で階段を駆け下り、案内板を探す。ADを作る場所はこっち、メディアセンターはあっちと、敷地内はインフォメーションが出ているので迷うことはない……はずだったが、目印がほとんどない。アリーナを一周して、2階へ上がってみる。何もない。誰もいない。

 いきなり途方に暮れてしまった。ため息をこぼしながら眼下をのぞくと、案内板があった。アリーナの向かい側に、A4サイズほどの控え目な目印がある。

 ふうぅ。ああっ、良かった。

 アリーナの外周を歩いた時に、メディアセンターの案内板を見つけていた。ちょっと寄っておきたかった。開幕前日ともなれば、何らかの資料が用意されているはずだからだ。

 ドアを開ける。記者がひとり、ふたり、以上、それだけ──えっ、ホントに?

 資料は?あるはずもなかった。

 ううーん。開幕戦は、ここで試合は行なわれない。まだ少し、時間はある。それにしても、ずいぶんゆっくりしている。

 ひとまずADはゲットしたので、メディアホテルへ向かう。1日午前にナコーンラーチャシーマー行きのバスが出ることになっていて、乗るなら予約をするようにとFIFAが告知していたのだ。10時発の1本しかないので、これを逃したら面倒なことになる。

 ホテルに着く。予約を受け付けているはずのウェルカムデスクを探す。ない。

 あの、デスクは? ここは2階です。1階へ行って下さい。

 あのあの、デスクは? ここではなく、2階です。

 あらら……。

 そもそも、メディアホテルなのに、何ひとつ大会の装飾がなされていない。FIFAの関係者らしき人も見当たらない。お揃いのシャツを着たボランティアもいない。いるのは要領を得ていないホテルの従業員──彼らからすれば、僕のほうがとんちんかんだっただろう──だけだった。

 とりあえず、ホテルの従業員が予約らしきものはしてくれたが、満面の笑みで「問題ないわ」と話す彼女は、どこまで状況を把握してくれているのか。

 ギモン、だ。

 日本人の常識を押し付けるのは良くないけれど、それにしてもずいぶんのんびりしているなあ、というのが僕の肌触りである。1日の開幕とともに、街の雰囲気も運営もスイッチが入るのだろうか。こちらもあまりカリカリとせずに、ゆったりとした心持ちでいたほうが良さそうだが、メディアバスだけは出てほしいものである。(戸塚啓=スポーツライター)

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