×

【コラム】戸塚啓

2023年サッカー界 一文字で表すと

[ 2023年12月11日 20:30 ]

ランニングする日本代表(撮影・西海健太郎)
Photo By スポニチ

 2023年のサッカー界に、ふさわしい一文字とは。

 日本代表に関連したものでは、「強」と「無」だろうか。

 カタールW杯後も続投した森保一監督のもとで、日本代表は今年3月から活動を再開させた。ウルグアイ戦との初戦は1対1のドローに終わり、直後のコロンビア戦は1対2で敗れた。しかし、6月にエルサルバドルとペルーを退けると、9月にはヨーロッパでドイツ、トルコと対峙する。

 カタールW杯のグループステージで勝利したドイツとの再戦は、日本のレベルアップを世界にアピールするものとなった。

 前半11分、伊東純也が先制ゴールを奪う。19分に同点とされたものの、直後の22分に上田綺世のワンタッチシュートで突き放す。その後も得点機を何度も作り出し、後半終了間際の90分に浅野拓磨がダメ押し弾をプッシュする。90+2分には田中碧がヘディングシュートを突き刺す。敵地で4対1の大差をつけ、ドイツから再び勝利を奪ったのだった。

 3日後のトルコ戦でも、4対2で勝利した。ドイツ戦からメンバーを入れ替えながらの勝利は、選手層の厚さを示すものだっただろう。

 10月にはホームでカナダとチュニジアを退け、テストマッチ4連勝を飾る。11月のW杯アジア2次予選では、当初発表されたメンバーから前田大然、川辺駿、伊藤敦樹、古橋亨悟が参加できず、活動開始後に三笘薫と鎌田大地が離脱を強いられた。森保監督はそのなかでホームのミャンマー戦、アウェイのシリア戦でメンバーを使い分け、いずれも5対0の勝利をつかんだ。

 海外組のレベルアップを土台としたその戦いぶりは、インパクトが大きい。最新のFIFAランキングは、カタールW杯前の23位から17位まで上昇している。試合のたびに「強さ」見せつけた1年だったと言える。

 ピッチ外では「無」の一文字が用いられる。

 シリア戦のテレビ放映が「無」かったからだ。

 日本サッカー協会の田嶋幸三会長は、「サムライブルー(日本代表)の戦いを多くの人に観てもらい、チームの背中を押してもらうためにも、地上波でのテレビ放送をお願いしたい」と繰り返し話してきた。しかし、W杯2次予選の放映権は、ホーム側の協会の管理下にある。日本向けの価格が吊り上げられたことで、地上波各局、ネット配信各局は放映を見送らざるを得なかった。

 シリア戦は火曜日の11時45分キックオフ(日本時間)だった。高視聴率を期待するのは難しいうえに、相手はシリアである。彼我の力関係を考えると、アウェイでも日本の勝利が確実視される。ハラハラドキドキの展開は予想しにくい。ライブ放送があったとしても、ハードディスクに保存したものをあとから見ればいい、と考える人は少なくなかったはずだ。高視聴率が望めるものではなく、放映・配信する側からすれば、高額の投資には見合わないコンテンツだったと言える。

 サッカーの普及や育成の視点に立つと、日本代表戦の地上波でのテレビ放送には確かな意味がある。いつ、どこで、どんな試合が行なわれているのかを広く認知してもらい、チームや選手への期待感を醸成していくために、地上波でのテレビ放送はメリットが大きいのだ。

 振り返ればカタールW杯アジア最終予選も、アウェイゲームは地上波でのテレビ放映がなかった。だからなのか、W杯前の日本代表のメディア上の露出は、過去のW杯より少なかった。ドイツに勝ったことで一気に火がついたが、大会前の盛り上がりは決して大きくなかった。

 W杯2次予選は来年3月に北朝鮮と、同6月にはミャンマーとのアウェイゲームが行なわれる。北朝鮮の実力は未知数だが、シリアに0対1で敗れている。その結果から判断すると、2試合ともに勝利が見込まれる相手だ。全国的な注目を集める試合にはならない。

 とはいえ、中継「無」しが当たり前になるのは避けたい。アウェイゲームを地上波で放送するための妙手はあるのか。結果的に日本から放映権料得られなかったシリア側の失敗が、他国の教訓となるのか。今後もタフな交渉が続くのは間違いないのだろう。(戸塚啓=スポーツライター)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る