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【コラム】戸塚啓

主導権を握るサッカーの実現が必要

[ 2022年12月10日 08:00 ]

ドイツに勝って喜ぶ日本代表イレブン
Photo By AP

 カタールW杯の日本代表は、議論の種を産み落とした。

 日本国内は熱狂と興奮に包まれたようだ。ドイツとスペインを撃破した直後の「熱」が、どれぐらいのものだったのか。クロアチアにPKで敗れたあとの落胆は、どれぐらい深かったのか。カタールでいまも取材をしている僕は、ある場所のある時間を切り取った動画でしか知ることができないが、同じ16強でも18年より大きな盛り上がりに包まれているのでは、と想像する。W杯の優勝経験を持つ2か国を倒したのは、大きなインパクトがあったのだろう。

 熱狂の渦のそばでは、冷静な声も上がっている。

 5-4-1のブロックを敷いて相手の攻撃を跳ね返し、カウンターに勝機を見出す戦いは、日本のスタイルとしてふさわしいものだったのか、という意見である。

 ドイツとスペインを相手に、4-2-3-1や4-3-3で正面からぶつかり合い、それでも勝利をつかむことができただろうか。自信を持って「できた」とは言えない。

 ドイツ戦、スペイン戦のミラクルな逆転勝利は、前半を0対1で折り返したところにポイントがあった。追加点を与えてしまいそうな場面はあったものの、5-4-1だから最少失点で後半に持ち込めた、と言うことはできるはずだ。4-2-3-1や4-3-3で臨んでいたら、前半のうちに失点を重ねた可能性は高かった、と想像する。

 どのようなシステムを採用するとしても、大前提となるのは日本人の良さを反映することだ。カタールW杯の5-4-1には、組織力、献身性、犠牲心といったものが色濃かった。さらに言えば、前線からのプレスとカウンターには、一人ひとりの選手が持つスピードと敏捷性が、チームとしての連続性と即時性につながっていた。

 グループステージを突破して、ベスト16で接戦に持ち込むのなら、今回のサッカーが現実的だと言える。

 代表チームの戦いは、所属クラブの延長線上とも言える。ベスト8には上位進出の常連国が顔を揃えているが、彼らは欧州のトップクラブでプレーする選手の集合体だ。自分たちが主導権を握る戦い、守りを固めた相手を崩す戦いを、多くの選手が日常としている。

 ひるがえって日本である。

 欧州でプレーする選手は増えているし、所属クラブで定位置をつかんでいる選手も多い。ただ、チャンピオンズリーグで上位に進出するようなチームで、ポジションをつかんでいる選手は限られる。

 ベスト8に安定して食い込むためには、自分たちで主導権を握るサッカーの実現が必要になる。「強者のサッカー」でリーグ戦に挑んでいるチームで、どれぐらい多くの選手がプレーしているのかが問わるのだと思う。

 そのためには、「個」のレベルをさらに上げていかなければならない。1対1ではなく2対1で守ったり、数的優位の局面を作って攻めたりするだけでなく、ひとりで守り切る、ひとりで攻め切る選手が増えれば、チーム全体の疲労も軽減できる。W杯のような短期決戦で試合を重ねていっても、チームのパフォーマンスが極端に落ちることはないだろう。

 個々のスタンダードをいまよりさらに上げて、日本サッカー全体で共有していく。それこそが、ベスト16の壁を破る第一歩になると思う。(戸塚啓=スポーツライター)

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