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【コラム】戸塚啓

W杯後が重要 熱さをJリーグと各クラブは活かさなければ

[ 2018年6月27日 16:00 ]

W杯2試合でスタメン出場しているのは、昌子源(鹿島)ひとり
Photo By ゲッティ イメージズ

 W杯は恐ろしい。

 6月13日にモスクワヘ到着したとき、W杯開催国の首都は拍子抜けするくらいに静かだった。シェレメーチエヴォ国際空港はそれなりにデコレーションがされていて、ネイマールの巨大な広告が来訪者を迎えてくれるのだが、モスクワ市内には街灯にバナーのひとつもない。大会のロゴが入ったインフォメーションセンターのテントがあるだけで、W杯の雰囲気を感じることはできなかった。

 滞在先の近くのカジュアルなレストランへ行くと、ペルー代表のユニフォームを着た団体がいた。ペルー、コロンビア、アルゼンチン、メキシコのユニフォームを着たサポーターにはかなりの頻度で会う。彼らの存在は、W杯が近づいていることを感じさせる唯一の手掛かりだった。

 そもそもロシア代表が、期待値の高くなかったチームである。昨年のコンフェデ杯ではポルトガルとメキシコに敗れ、グループリーグで敗退した。その後もテストマッチで結果を残すことができず、今年に入ってからは最終ラインにケガ人が続出した。一度は代表引退を表明した38歳のセルゲイ・イギナシェビッチを、急きょ呼び戻さなければならない事態にも直面した。サッカーに関心のない人も巻き込んだ盛り上がりは、率直に言って期待できないものがあった。

 それがどうだろう。サウジアラビアとの開幕戦で大勝すると、街の空気が熱を帯びてきた。それでもまだささやかなものでしかなかったが、第2戦でエジプトにも勝利するはっきりと熱が高まっていく。ファン・サポーターの支持を得るには、勝利こそが最高の誘導になるのだということを、改めて実感させられている。

 ひるがえって日本である。

 コロンビア撃破が導火線となって、日本国内は大変な盛り上がりのようだ。スリリングなドローとなったセネガル戦も、国内の関心を惹きつけるのに十分な展開だった。追いつかれたのではなく追いついたのが、期待を膨らませる。

 4年前のブラジルW杯は、事前の準備に基本的な問題はなく、選手たちからも大きな目標が聞こえてきたことで、期待値が大きかった。それだけに、1分2敗という結果との落差は大きく、大会後は深い失望と無関心が襲ってきた。

 今回は対照的である。大会前の評価は底を打っていただけに、好結果に誰もが驚き、爆発的な盛り上がりにつながっているのだろう。

 4年に1度のW杯である。日本代表の戦いが国内で関心を集め、朝の情報番組から午後のワイドショーを独占するのも、サッカー界にとって悪いことではない。

 ただ、W杯後にも眼を向けなければならない。

 ロシアで誰に眼にも分かりやすい結果を残している選手、たとえば大迫勇也、乾貴士、柴崎岳といった選手たちは、ヨーロッパのクラブでプレーしている。ここ2試合のスタメンでJリーグのクラブに所属しているのは、センターバックの昌子源ひとりしかいないのだ。

 W杯でサッカーに関心を抱いた人、関心を取り戻した人が、7月中旬に再開されるJリーグを観に行くとしよう。ところが、ロシアW杯でスポットライトを浴びた選手が目の前のピッチにはほぼいない。各クラブが取り込みたいと考えるライト層を呼び込むには、難しい状況と言うことができる。

 日本が勝ち上がれば、サッカーが話題になる。しかし、テレビの情報番組やワイドショーが追いかけるのは、あくまでも日本代表だ。Jリーグと結びつけてはいない。

 W杯をきっかけとする盛り上がりを、サッカー全体の熱へ持っていくことができるか。Jリーグと各クラブは、どのような仕掛けを考えているのだろう。いつもどおりのリーグ再開ではもったいないし、それでは物足りないのは間違いない。(戸塚啓=スポーツライター)

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