×

【コラム】戸塚啓

未知数のオプションを実戦で試したザッケローニ監督

[ 2011年9月9日 06:00 ]

ウズベキスタン戦で支持を出す日本代表のザッケローニ監督
Photo By スポニチ

 【W杯アジア3次予選C組 日本1―1ウズベキスタン】試合終了のホイッスルが鳴ると、ほっとしたような表情を浮かべる人が目についた。日本人ではない。ウズベキスタンの人々である。
試合前から地元の熱狂的な声を伝えていた地元のテレビリポーターは、自分を納得させるように「いいゲームだった」と呟き、握手を求めてきた。

 どちらのチームもいくつかの好機を作り出した。1点で物足りないのは共通する。

 ウズベキスタンからすれば、1対1のシーンをことごとく防がれた川島の存在が恨めしかったはずだ。一方の日本も、流れの良くなかった前半から好機は作り出している。前半はウズベキスタンが、後半は日本が主導権を握ったことを考えても、ともに勝ち点1を積み上げたのは妥当な結果と言える。

 ただ、勝てたのではないかという思いを簡単に拭えないのも事実である。香川をトップ下に配し、清武を右サイドに置いた後半の布陣でスタートしていれば、結果は違ったものになっていたのではという思いはくすぶる。

 本田と中村憲が相次いで離脱したことを受けて、ザッケローニ監督は2日の北朝鮮戦で柏木をトップ下に指名した。

 北朝鮮戦はホームゲームであり、埼玉スタジアムは浦和所属の柏木にとってお馴染みの会場だ。事前合宿では「出たら緊張するかもしれない」と話していたが、「チャンスがきたら生かしたい」との決意も表していた。重圧よりも意欲が先行する、とザックは考えたのだろう。

 北朝鮮が守備を固めてくると想定すれば、リスタートがいつも以上に大切になる。本田に代わる左足のプレスキッカーも用意しておきたい。柏木に起用には、そうした意図が含まれていたと思う。

 ウズベキスタン戦は違った。「日本は非常に強いチーだが、だからと言って何かを変えるつもりはない」

 前日の記者会見でアブラモフ監督はこう語っていたが、ホームゲームに臨む彼らは勝ち点3を狙ってくると想定される。北朝鮮戦とは正反対の試合展開を前提に、ザッケローニ監督はキャスティングを変更したのだった。「経験のある阿部を配置しようと思った」という指揮官の狙いは、ひとまず理解できるものだ。相手の攻めをしっかりとしのいで勝利をつかめば、阿部の抜擢はその主たる要因として称賛されていたに違いない。

 しかしザックは、前半にしてゲームプランの変更を強いられる。トップ下にポジションを上げた長谷部が特徴を発揮できず、阿部も試合の流れに乗り切れない。前半途中で遠藤と長谷部を横並びとする4-1-2-3に変更したが、それも効果はいまひとつだった。

 果たしてザックは、後半から香川をトップ下へスライドする。清武の登場で内田の攻撃力が引き出され、右サイドが攻撃の起点となる。左サイドへポジションを移した岡崎のフリーランニングも生かされ、同点ゴールへ結びついたのだった。

 変化の理由をシステムだけに求めるのは、少しばかり短絡的である。ウズベキスタンの流動的な攻撃に、とりわけ前半は守備陣が翻弄された。デコボコのピッチに注意を払い過ぎ、いつもパスワークを自分たちで封印したところもある。使い慣れていないボールのフィーリングも、選手たちのプレーに微妙な影響を与えていた。システムですべてを語ることはできない。

 1トップの後方に右から清武、香川、岡崎が並ぶ4-2-3-1には、ザックも手ごたえをつかんでいるはずである。それにもかかわらず、前半に新たなオプションを試したのはなぜか。

 3次予選突破という目前の結果を求めつつ、ザックはチーム全体の底上げをはかろうとしているのではないだろうか。未知数のオプションを実戦で試すことによって、継続的に使えるか否かの取捨選択をしていると思うのだ。

 年齢的にも実力的にも2014年までを見通せるメンバーが揃っていることで、我々はこのチームを熟成させればいいと考えがちである。かつてのジーコがそうだった。

 だが、ザックはチームの可能性を掘り起こすことに貪欲である。ウズベキスタンとのドローゲームは、指揮官の野心を表していたような気がするのだ。(戸塚啓=スポーツライター)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る